大阪府池田市満寿美町9-4
街区公園
満寿美公園は比較的前例の少ない防災公園として位置づけられた街区公園である。「いつもの場所が避難場所になる」防災と日常を近づける取り組みとして、広域におけるウォーカブル・グリーンインフラ推進の面的なアーバンデザインのパイロットプロジェクトとして位置づけた。大正期の郊外住宅地近辺の公園面積が不足した敷地に立地し、都市計画決定から66年が経過した待望の新設公園として2022年に供用を開始した。
四方が分譲マンションに囲まれた正方形の敷地に円環上の丘と広場、3つの小さな建築物の計画を行った。公園内におけるトイレがエリアに対して「裏側」という暗い印象を残さないということから発想し、トイレを埋設しつつ、遊び場や憩いの場としても機能する盛り土を同時に行うことで、多様な人々が日常の延長として各々の自由な過ごし方ができる公園を目指した。小さな街区公園だからこそ、「遊具」という子どもというユーザーに限定しないよう、時間に応じて多様なユーザーが住み分けながら使用することを意図している。また、土の切り盛りの土量を極力等価にすることで、環境面・費用面にも配慮を行った。
デザインにおいては、①明確な入口や敷地を隔てる境界がない、まちにひらかれた柔らかな公園境界部のデザイン、②建築、土木、ランドスケープを横断的に思考することによるおおらかで身体的な空間のデザイン、③遊び、防災、排泄、子育て等の多様なふるまいが地形的な操作によりひとつの風景の中で共存可能なデザイン、の3つのポイントを重視した検討を行った。
地面を掘削しその土を盛土する土木的な発想により、身体に寄り添うランドスケープとしての微地形を作り、それらに呼応する建築を配置するといった、分野を横断的に思考することで実現された様々な起伏を持つ丘や敷地境界のデザインによって、利用者が思い思いの居場所を見つけられる公園となっている。
駅に近い住宅地の中の新設された街区公園であり、防災公園の性格も併せ持つ。街区公園とは思えない高い質の空間であり、近くの公園と比較するとその違いがよく分かる。実見の時には、人が誰もいない時間はなく、特に遊具はないが様々な年代の子どもたち、親子遊び、友達同士、じじばばの散歩、犬の散歩など思い思いに過ごしていた。
公園と周辺の道路や敷地との境界には柵はなく、ベンチや中を見渡せる植栽によって緩やかに囲われている。周辺道路や隣接マンションからは公園全体を見通すことができ、2つの分節された建物はこんもりした地形に埋め込まれ、街に対して開かれていて裏側を全く感じさせない。
トイレを包む急な斜面は、そこに登る、転がり落ちる、寝転がる、ラジコンで登るなど子供たちの格好の遊び場になっている。つるつるな表面の滑り台、ゴムチップの柔らかい床や斜面も人気である。
天然芝やゴムチップ、トイレの清掃やカギ開閉など、高い質に応じた維持管理コストがかかることに対する体制や削減の工夫、周辺地元の参加などが気になるが、駅やカップヌードルミュージアムなどの回遊を促進し、周辺エリアの価値を高めていく挑戦に敬意を表したい。(泉)
一般的に街区公園は、フェンスで囲まれ土の広場と遊具や砂場、トイレなどが配置されることが多いが、この公園は一線を画す。
敷地境界は周囲にオープンであり、遊具もないかわりに、重なる円をモチーフに建築と一体になった起伏のある造形により、平坦な住宅地の中で地域に新しい魅力と中心性を与えている。デザインを感じとって、こどもたちが広場でこおり鬼、パーゴラ下でボードゲーム、人工芝斜面で段ボール滑りなど、好きな場所を見つけて遊んでいる。
卓越した創造性で独創的なデザインを構想した設計チームだけでなく、それを受け入れる意思決定をし、街区公園だけでなく防災ほかの予算を集めた行政にも敬意を表したい。建築と土木がシームレスに一体化しているデザインには、意図伝達による施工時の調整は必須であった。
行政と設計者が一体となってハードルを越えていった経験が、現在進行中の駅周辺整備につながる。質の高いデザインの実現が地域に波及し、近隣の民間施設とともに面的に豊かな公共空間がつながっていく展開を期待する。
一方で、見切なく突付の人工芝と天然芝、ゴムチップ舗装などシンプルを極めたディテールは中期的な耐久性や維持管理を見守りたい。(太田)