福岡県大川市大字小保地先~佐賀県佐賀市諸富町大字為重地先
有明海沿岸道路(自動車専用道路)における筑後川および早津江川に架かる橋梁
有明筑後川大橋(以降、筑後川大橋)は、選奨土木遺産ランクA のデ・レイケ導流堤を跨ぐ国内初の2連の鋼単弦中路アーチ橋、有明早津江川大橋(以降、早津江川大橋)は、国史跡で世界遺産三重津海軍所跡構成遺産の緩衝地帯を跨ぐ長大支間の桁橋と、曲線・斜角を有する渡河部の鋼単弦中路式アーチ橋の連続橋であり、共に有明海沿岸道路の道路橋である。川の流れでつくられた雄大な風景の中で、国指定重要文化財の筑後川昇開橋等と一体的に見られるため、「昇開橋、デ・レイケ導流堤、三重津海軍所跡をはじめとする既存施設に寄り添い、景観資源との調和を図りながらも洗練された質の高い橋」を2橋共通のコンセプトとした兄弟橋である。
歴史遺産との関わりと、難易度が高い有明海の超軟弱地盤地帯の橋梁としての橋種選定・橋梁計画・デザインの質を担保するため、2橋の検討・議論体制として設計検討委員会を設立し、また、熊本大学星野准教授を座長とする景観WGを設計コンサル2社と立ち上げ、委員会と合意を図りながら進めた。
「横への広がり感」、「歴史遺産への配慮」、「2橋を含む地域全体の一体感・統一感」に特に留意し、2橋は渡河部を張出の大きいブラケットによる軽やかな上部工とし、またアプローチ部までフェイシアラインを連続させた。一方、周辺景観や歴史遺産との関係を個性と捉え、筑後川大橋は2連アーチのシルエットを強調する台形断面アーチリブとクロス配置の吊材、筑後川になじむ淡い桜色とした。早津江川大橋は曲線橋の美しい線形を活かす多角形断面アーチリブと鉛直吊材、緑地空間になじむ裏葉色とし、2橋は強調しすぎることなくそれぞれの個性を活かして、地域の景観の質を高めた。
導流堤が一部解体に伴う調査・記録と地上2か所への移設展示、三重津海軍所跡が工事後に架橋エリアの国史跡追加指定の文化庁文化審議会答申を受ける等、歴史遺産の保全・活用を地域に広げた文化的事業といえる。
快晴のもと、まずは筑後川大橋を実見した。九州最大の一級河川に、2つのアーチがまるで羽を広げているかのように、青い空とのコントラストを纏いながら雄大に連なる風景を目の当たりにした。筑後川大橋は選奨土木遺産ランクA のデ・レイケ導流堤を跨がなければならず、導流堤幅内に橋脚が収まるよう丁寧なデザインがなされている。また橋脚設置に伴う導流堤解体調査によって、内部の構造や明治期の築造技術に関わる知見が得られたことも興味深い。一方、同じく有明沿岸道路に繋がる早津江川大橋は、単弦かつ多角形断面のアーチリブとシンプルな鉛直ケーブルの採用によって、シルエットの軽快感とともに隣接する世界遺産、三重津海軍所跡との調和が図られている。両橋ともに張り出しの大きいブラケットと連続したフェイシアラインが印象的で、その軽やかでありながら強調される水平線が、よりアーチリブを印象的に見せている。両橋はデザイン的な統一、調整が図られ、史跡として名高い昇開橋等にも配慮しながら、各橋が担うべきシンボル性を巧みに獲得している。両橋上からアーチ越しに眺められるシークエンス景観も爽快で、多くのドライバーがきっと沿岸道路を「また通りたい」と思っているに違いない。(柴田)
歴史遺産に近接して大規模な構造物を計画するのは、いつも難しい。空間のスケールに差があり過ぎるだけでなく、構造、素材、テクスチャ、ディテール、そして存在自体のコンテクストまで、ほぼすべてのものが異なるからである。しかし、現代の社会生活を支えるうえで必要なインフラを整えることも大事であるし、そのバランスの中で解決策を見出していかねばならない。今回の2橋については、まずデ・レイケ導流堤との関係性の解き方に注目したい。川の流れ方を制御することで土砂堆積を防いで航路を確保するという導流堤の機能を阻害することなく、同時に橋が巨大になり過ぎることを避けるため、導流堤上に橋脚を設けるという大胆な方法がとられている。周辺景観との調和を考慮して2連の中路アーチとしたことに加え、景観上の煩雑さを抑えることや橋上からの開放的な眺望のために単弦アーチとしたことも理にかなっている。複数の要請がひとつの形態で見事に解決されている。同じ路線上の有明早津江川大橋も優れている。有明筑後川大橋と類似の中路アーチで関連性をもたせつつも、三重津海軍所跡を跨ぐ部分はアーチ部と同程度のスパンにも関わらず桁構造としている。その判断も高く評価したい。(久保田)