宮城県気仙沼市小々汐地区~朝日地区
道路橋
本橋は、東日本大震災からの復興を担うリーディングプロジェクトとして事業化された三陸沿岸道路の一部として気仙沼湾に架かる橋であり、災害時の道路ネットワーク確保、交通課題緩和、産業・観光支援を目的とした「復興のシンボル」として位置づけられた。
震災後に改定された道路橋示方書で初めて設計される長大斜張橋となった本橋の計画に際しては、『建設コンセプト:気仙沼湾の象徴となり、自然豊かな風景と調和した地域の発展・復興を支える美しい形態の橋』および『設計コンセプト:東日本大震災の被害を踏まえ、想定外の事象に対しても損傷が制御され、維持管理しやすい橋』を設定し、復興のシンボルとして気仙沼湾の風景にふさわしい「美しさ」と“ダメージコントロール”、“リダンダンシー”、“維持管理の確実性及び容易さ”といった新時代の橋梁としての「機能性」の両立を目指した。これらは“構造デザイン”として同時進行で試行錯誤し、技術検討委員会での審議も経た結果、総合的に質の高い橋が実現できた。また色彩やライトアップ計画は、地元住民との意見交換結果を反映した。
設計においては、まず斜張橋区間のシンメトリーな美しさを実現するために、前提条件であった道路縦断の見直しから実施した。構造面では、航路限界等を考慮した300m以上の支間長への合理的な形式として斜張橋を選定した。主桁の点検作業を容易とする1面吊りケーブル、安定性を高める逆Y字主塔、鋼製主塔を船舶衝突から守る塔基部RC橋脚を基本構造とし、これに対して全体的な統一感と、力の流れに沿ったバランスの良い形態を追求した。主塔は、上部を曲線で滑らかに繋ぐ一体形状とし、下部は柱幅をテーパー状に広げてRC橋脚とともに力学的な安定感を視覚的にも確保した。主桁及び主塔断面は耐風安定性と維持管理性を両立した断面(主桁:扁平六角形、主塔:八角形)とし、視覚的にもスレンダーかつ上品な印象に仕上げた。
東日本大震災後の復興のリーディングプロジェクトとして、多くが山の中を通る三陸道で唯一海を渡る橋として計画された。ドライバー目線では、山の中から海が現れ視界が開け、眼下に魚市場や数多くの漁船、気仙沼の市街地が広がり、わざわざ渡りたい名所となっている。海と山が近接するリアス地形ゆえの眺望名所である、安波山、復興祈念公園、神明崎、亀山などからの眺めは美しく、特に安波山からの気仙沼湾横断橋と大島大橋の2橋が重なる景観は、気仙沼を代表する景色として多く紹介されるフォトスポットである。また、魚市場に水揚げする全国の漁船にとっては気仙沼のGATE的存在で、遊覧船に乗ると橋のストーリーや橋桁下面の安全航海・帰港歓迎の国際信号機の案内があり、観光客は橋の上から下から両方を楽しむこととなる。市民には身近な存在で、真下は釣りのスポットにもなっている。
この橋は、遠くから眺めても、近づいて見上げても両方美しい。道路縦断線形を見直すことで左右対称の形を実現し、水平ラインを引き立たせるため橋桁の水平部に光が反射するようデザインされている。構造物の形状は、堂々と存在感があるがやわらかな印象で、突起がなくシンプルな多角形断面で、細かな意匠まで配慮されている。
まちに隣接し海を渡る橋なので、色々な場所から目に入る。光のデザインが素晴らしく、天候や時間により変化する光のコントラストが、リアス地形の空、海、山、まちを背景に美しく映える。復興のシンボルとして、今後のまちの展開にも、多くの人に光を照らし元気を与えてくれるに違いない。(泉)
2011年、東日本大震災が発生して半年ほど経った後に、気仙沼市を訪れた。建物は崩れ、道路は割れて、港は傾いていた。日に焼けた老人が一人ベンチに腰掛けて、無表情にただぼーっと海の方を見つめていた。あの街が今、美しい街へと復興し、あのときの老人が見ていた海には、一筋の白いラインが湾を横断して架かっている。復興までのさまざまな苦難も、この橋の純度の高い造形の中に幾分か吸い込まれ、美しいものへと昇華されていく。そのようなある種の象徴性、まさに「復興のシンボル」としての役割がこの橋には感じられる。その純度の高い造形を成立させているのが、構造的な明快さと洗練されたディテール、そして高い施工技術である。端正という意味において、これほどまでに端正なフォルムを有する斜張橋は国内では他にないのではないかとさえ思える。1面吊りのシンプルなシルエット、柔らかみのある逆Y字型の主塔、そのエッジ部に施された面取り、扁平な逆台形断面の桁、主塔および桁の全断面溶接、支点付近の丁寧な桁の断面変化、連続したフェイシアライン・・・。付属物においても、照明柱や案内標識、検査路などが煩雑にならないよう細部にまで徹底した配慮がなされている。白い色もこの橋のシンボル性を高めている。夜にはライトアップが、まるで鎮魂の祈りを捧げるかのような雰囲気を醸し出す。シンメトリックなプロポーションは、設計の前提条件であった道路縦断を見直すことで生まれている。上流工程から下流工程への一方通行ではなく、上流工程に遡ってデザインをブラッシュアップしたことも実に素晴らしい。(久保田)