選考結果について

奨励賞

国道18号「坂本宿」道路再整備National Route 18 "Sakamoto-Juku" Road Improvement Project

群馬県安中市松井田町坂本(一般国道18号旧道)
道路

群馬県安中市の旧宿場町、坂本宿を走る国道18号(県管理、L=780m)における、学童の安全な通学のための歩道整備を主眼とした、地域活力基盤創造交付金による道路再整備。整備対象地は、江戸時代には碓氷峠を控えた中山道の上州最後の宿場として栄え、現代でも歴史的建造物や背後地の地割、道路南側の用水路など、宿場町としての面影を残している。さらに近隣には、碓氷峠鉄道遺産群(丸山変電所、碓氷第三橋梁等)や、それらを結ぶ「アプトの道」などの産業遺産、「碓氷峠鉄道文化村」、「峠の湯」といった観光施設などがあり、交通安全対策とともに、地域からは将来的にこれら資産を活かしたまちづくりの基盤となる道路空間デザインが求められた。
車道幅員を片側2.75mまで狭め、整備前片側であった歩道の両側設置と歴史的な用水路のせせらぎ水路としての再整備を両立するため道路空間再配分をおこなった。二層化構造で水路を保全しながら新たに歩道空間を創出した。水路を含めた境界部に自然石を用いてディテールを集約しながら、歩車道はあえて除雪やメンテナンスが容易な一般的なアスファルト舗装を選択、将来的な維持管理や地域住民の道路利用に合致した持続する高質な道路空間の実現を目指した。
旧宿場町のコミュニティの骨格をなす道路であることから、平成18年度基本計画、平成19年度基本設計、平成20年度詳細設計の3ヵ年を通して、まちづくり座談会や意見交換会にて地元住民と丁寧に議論を重ねながら整備内容を検討した。その結果、水路整備にともなう各家への渡り部設置位置について自主的に調整が行われるなど、地域の積極的な協力のもと事業が進められた。
地域固有の歴史文化の継承と交通安全対策を両立する道路空間再配分、縮退の時代において持続可能な道路空間の高質化、地域コミュニティとの協働による事業推進など、今後の土木デザインのあり方に対して示唆的なプロジェクトである。

《主な関係者》
○小野寺 康(有限会社小野寺康都市設計事務所)/基本計画、基本設計、詳細設計、施工管理
○福島 秀哉(有限会社小野寺康都市設計事務所(当時)、東京大学大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 助教(現在))/基本計画担当、基本設計担当、詳細設計担当、施工管理担当
○宮坂 隆彦(株式会社 KRC(当時)、有限会社 公園景環(現在))/道路詳細設計
《主な関係組織》
○群馬県安中土木事務所/事業主体、住民座談会開催
○財団法人都市づくりパブリックセンター(当時)、公益財団法人都市づくりパブリックデザインセンター(現在)/計画調整
○坂本区長会/まちづくり座談会開催、住民間の各種調整
○峰岸土木株式会社/施工
○小板橋建設株式会社/施工
○株式会社アトリエ74建築都市計画研究所/基本計画策定
《設計期間》
2007年2月~2009年3月
《施工期間》
2009年4月~2012年11月
《事業費》
約4億円
《事業概要》
整備概要
 整備延長:780m
 道路幅員:約10m
 立地環境:国道18号線(県管理)群馬県安中市松井田坂本区(坂本宿)
 主要事業:地域活力基盤創造交付金(交通安全)による歩道再整備事業
整備内容
 車道幅員縮小/両側歩道設置
 道路面の盤下げ
 せせらぎ水路+農業用水用ボックスカルバート
 舗装・仕上げ素材
  歩道:透水性アスファルト舗装
  車道:アスファルト舗装
  交差点部車道:小粒骨材露出舗装
  歩車道境界・地先境界・街渠・せせらぎ水路:自然石(白・黒・灰御影石)
 街路設備
  歩道照明(交差点部)
  横断抑止柵(交差点部)
  フットライト(せせらぎ水路)
《事業者》
群馬県安中土木事務所
《設計者》
有限会社小野寺康都市設計事務所
(設計協力者)
株式会社KRC
《施工者》
峰岸土木株式会社
小板橋建設株式会社
高崎ホンダ電設株式会社

講評

坂本宿は中山道の上州最後の宿場町である。碓氷関所跡を抜けて坂本宿に向かう。ところどころに水路で使われた玉石積みが見られる。
徒歩一時間、坂本宿に到着。木戸がなければ通り過ぎてしまうかもしれない。南側(江戸側)からは緩いが坂だとわかる程度の上り坂で、正面のお椀を伏せたような山が印象的である。
道路空間再配分をおこない既存の水路を整備し、境界部にディテールを集約させたメリハリのある丁寧なデザインの投入は秀逸であり、それによって空間全体の質を高品位に押上げている。
整備のきっかけであった小学校、中学校は閉校となっている。そのうえで、この整備が、ここに生活している人の生活にどのような「変化」をもたらしたか?という問いを生活者の皆さんに問うてみたい。
日本津々浦々にあるこのような街並みにおいて、地域の歴史性や場所性を継承し、かつ日常空間の質を底上げするデザインのひとつの方向性を示唆するデザインといえる。(吉村純)


※掲載写真撮影者は左から1・2枚目が小野寺康、3・5・6枚目が北村仁