選考結果について

最優秀賞

神門通りShinmon Dori Avenue

島根県出雲市大社町
街路・広場

神門通りは、出雲大社参道を延伸する形で1913年に路線が開通され、1916年にRC造の大鳥居と松280本が地元篤志家によって寄贈されて参道の体裁が整った比較的歴史の浅い参道である。しかし完成まもなく戦後の自動車の増加が歩行者空間を圧迫し、歩いて参詣するという機能が阻害されて沿道商店街は衰微、やがて参詣者の数とまちのにぎわいがまるで連携しない状況が長く続いていた。
出雲大社の本殿遷座祭(大遷宮)を2013年に迎えた島根県は、神門通りの本格的な改修を決めた。石畳の参道へ景観を刷新するとともに、「シェアドスペース」(歩車共存型道路)の概念を導入して車両通行を抑制し、「歩ける」通りに転換させるというのが整備骨子である。
2011年に神門通りのデザインをテーマにした住民ワークショップが開催されることとなり、このとき小野寺康(小野寺康都市設計事務所)と南雲勝志(ナグモデザイン事務所)が設計者として選ばれた。実はこの設計チームは、2004~6年に同じく島根県の津和野町にある「本町・祇園丁通り」(2009年土木学会デザイン賞・最優秀賞)にも協働で関わっており、車道の石畳化と、デザインによる歩行者空間の強化を実現していた。この神門通りのデザインは、その進化系であり、日本を代表する大社の表参道にふさわしい姿に景観を一新しながら、観光バス対応の重車両交通という条件下でシェアドスペースを実現し、さらに津和野で見出したデザイン手法によって、歩車共存ではなく「歩行者主体」の空間化を図った。そしてこれを実現するすべてのプロセスに住民参加のタイミングを組み込んだのである。
なおこの事業に連動して、一畑電車・出雲大社前駅に隣接してポケットバーク「縁結びスクエア」が整備された。一畑電車、出雲市、島根県による合同事業であり、観光客や地域住民のための小さな憩いの場として、敷地境界の見えない完全な一体事業として実現した。

《主な関係者》
○小野寺 康(有限会社小野寺康都市設計事務所)/デザインコンセプト、街路景観設計、ポケットパーク景観設計、現場監理(デザイン監理)
○南雲 勝志(ナグモデザイン事務所)/照明、ストリートファニチュア設計、現場監理(デザイン監理)
○高橋 宏道(株式会社ワールド測量設計)/道路詳細設計、電線共同溝設計
○渡邉 篤志(WAO渡邉篤志建築設計事務所)/ポケットパーク建築設計協力
○森山 昌幸(株式会社バイタルリード)/事業調整、ワークショップ運営
○桑子 敏雄(東京工業大学大学院 教授(当時)、一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ(現在))/総合コーディネータ、ワークショップ指導
○橋本 成仁(岡山大学大学院 准教授)/交通計画
《主な関係組織》
○島根県/事業計画、事業主体
○出雲市/沿道まちなみ調整、ワークショップ協力
○一畑電車株式会社/ポケットパーク事業主体(駅舎改修、カフェレストラン整備)
《設計期間》
2010年5月~2012年3月
《施工期間》
2011年5月~2016年2月
《事業費》
神門通り 約2,300,000千円
ポケットパーク 79,980千円(島根県・出雲市)
《事業概要》
神門通り
 幅員:一般部12m、坂道部:12~23m
 延長:490m
 立地環境:商業地
 主要施設(主要事業):
  電線共同溝敷設/電線類地中化
  自然石(グレー+黒御影石)切石舗装/重車両対応型湿式工法
  鋳鉄製照明柱
  地場石材(福光石)植栽桝
  松並木回復処置(客土改良・大型グレーチング設置)
ポケットパーク 縁結びスクエア
 面積: 641㎡(出雲市254㎡、島根県162㎡、一畑電車225㎡)
 立地環境:鉄道駅前・商業地
 主要施設(主要事業)
  木造休憩所・トイレ・カフェレストラン
  御影石+煉瓦舗装、芝生広場
  煉瓦擁壁ベンチ(フットライト付き)
《事業者》
島根県
出雲市
一畑電車株式会社
《設計者》
有限会社小野寺康都市設計事務所
ナグモデザイン事務所
株式会社ワールド測量設計
(設計協力者)
東京工業大学大学院 桑子敏雄
岡山大学大学院 橋本成仁
株式会社バイタルリード
《施工者》
株式会社中筋組
岩成工業株式会社
まるなか建設株式会社
神州電気株式会社

講評

由緒ある出雲大社神社の参道は大鳥居と松の並木で構成されてはいるが、以前は参拝者が歩きにくい参道となっていたため、参拝者は参道を避け、入口近くの駐車場を利用することが多かったとあるが、私にも参拝時に参道を歩いた記憶がない。
この参道を由緒ある神社の門前として大遷宮の年を目指して再生させるのが今回の目的となる。歩道と車道をフラットにし、そのボーダーを曖昧にさせて「シェアドスペース」を取りいれて歩行者と車のよりよい関係での共存を図ることを考えている。実際に現地にたつと、歩行者の少ない時間帯にはそれなりの交通量とスピードで走ってはいるが、歩行者のいる時間になるとスピードを落とす、中心側によるなど自然に車側の配慮も感じられ、この考えがうまく働いていると思えた。また、歩行者も歩道から車道へ落ちるというような感覚を持つことなく、車道側まで安心して広がることができる。
このプロジェクトが参道に歩行者が戻ってくるきっかけをつくり、その結果として参道に面した店舗にも活気が戻りつつあるように感じられた。大仰に構えた参道の再生デザインではなく、機能面の整理から始め、通りの持つ性格を生かすデザイン手法は、500メートル近いこの参道を時代に合わせ緩やかに再生させたとして評価をした。
また、デザインの細部にまで細やかな配慮がなされており、歩道、車道の御影石の採用、両者のフラットな繋がり関係、街灯の統一されたデザイン、松の木の根周りのデザインなど機能とデザインがバランスよく考えられている。(東)

なじみの神社である。子供の頃から正月には毎年のように参拝している。が、しかし、神門通りを歩いて参拝した記憶はほとんど無いに等しい。立派な松並木の表参道であるにもかかわらず、である。車で来たときは大社横の駐車場から直接境内に入っていたし、電車のときは一畑電鉄の駅から印象の薄い道路(神門通りだったらしい)を通り木の鳥居をくぐったものであった。
去年2016年の夏、息子たち家族とひさしぶりに大社を訪れた。神門通り中程にある駐車場に車を止めて通りに出る。昔の様子とあきらかに違う。お店の前のベンチに腰を下ろしながらアイスクリームを食べている。観光客は当然のように参道をそぞろ歩きしている。整備前しか知らない自分にはこの違いに驚かされた。普通の道路だったところが、「表参道」に変身しているから無理も無かろう。資料に「シェアドスペース」(歩車共存型道路)の概念が記してあるが、初めて訪れた観光客にはもはやこのゆったりとした歩行空間が当たり前となっている。人の動きを見ているとまさに「歩車共存」以上に「歩行者主体」の「歩ける」通りとなっている。「参道らしさ」を十分に表現する石畳、石の仕上げなどへの細部へのこだわり、坂道部の階段と平場のあつかい、照明柱の素材感やデザイン、また、限られた寸法の中でマツの植栽基盤を広げた配慮も素晴らしい。
堀川にかかる字迦橋の架け替え工事、それに伴う残りの参道の整備が待たれるところである。自分の故郷の誇りである「出雲大社」に、このような表参道が整備されたことを心から嬉しく思う。(吉村純)