選考結果について

優秀賞

鶴牧西公園歩道橋Tsurumaki west park pedestrian bridge

【東京都多摩市鶴牧】
用途 /歩道橋

 今から24年前の平成元(1990)年に、多摩ニュータウンの唐木田地区の開発に伴って架けられた緩い螺旋階段を持つ歩道橋である。高台にある中高層集合住宅地域内の歩行者路と、6m下で直行する生活道路とを連結する機能に加え、その歩行者路を公園内の園路に連続させる機能をあわせもつ。
 利用者による自転車の押し歩きを可能とする為に長いスロープが必要とされていたが、
歩行者路の用地は直線でしか確保されていなかったため、特例として螺旋部は公園用地にはみ出す事が許され、この案が実現可能となった。また、機能を満足する為の螺旋状の特徴的な形態が、ささやかなランドマークとして存在することになった。螺旋部中央のハイポール照明も全体のイメージを引き立てるシンプルなデザインとしている。
 親柱、高欄などのディテールのデザインにも力を注ぎ、主張し過ぎず、それでいて新しく、人が触れる事を前提としたデザインとした。トップレールは太めの半円の断面とし、外的視点からも内的視点からも、流れる形態を強調する役目を持たせている。親柱にもトップレールをデザインの一部に取り入れ、黒御影の板の組み合わせでデザインした。バラスターは、直交する道路の外的視点からはできるだけ透明に、歩行者の内的視点に対してはある程度「面」を感じさせるように考え、板状の部材の組み合わせでデザインしている。
 橋台が法面と接する点に関し、階段の有無で橋台の左右のデザインを変え、階段脇張り出し床版下の雨掛かりの少ない部分も植栽範囲を検討したことで、四半世紀近く経った今、予想通りの感じで緑ととけ込んでいる。

《主な関係者》
◯遠藤 泰人(株式会社空間スタジオ)/全体デザイン、詳細デザイン
◯高重 裕幸(株式会社旭技建(当時)株式会社K-テクニカルエキスパーツ(現在))/
全体計画・コンセプト形成、基本計画の立案
◯工藤 雅則(株式会社旭技建(当時)株式会社K-テクニカルエキスパーツ(現在))/
全体計画・コンセプト形成、基本計画の立案
◯小島 祥孝(株式会社旭技建(当時)株式会社K-テクニカルエキスパーツ(現在))/
橋梁の計画、構造計算
◯野村 敏彦(住宅・都市整備公団南多摩開局)/基本計画の立案、全体調整
《主な関係組織》
○住宅・都市整備公団南多摩開発局(当時)、独立行政法人UR都市機構(現在)/事業の推進
《設計期間》
1988 年4 月~1989 年3 月
《施工期間》
1989 年8 月~1990 年6 月
《事業費》
60 百万円

《事業概要》
24年前、多摩ニュータウン・唐木田地区の開発に
伴って設けられた緩い螺旋階段を持つ歩道橋です。
高台にある中高層集合住宅地域内の歩行者路と、
6m下で直行する生活道路とを連結する機能と、
更にそれを公園内の歩行者路に連続させる機能をあわせもちます。
道路の種別:歩行者専用道路
形式:3 径間RC ラーメン橋
荷重:群衆荷重
橋長:44.1m
有効幅員:3.0m

《事業者》
UR都市機構

講評

 本橋の竣工は1990年7月である。実に24年の時を経た橋梁の応募というのは、本賞の歴史の中でも例を見ないのではないか。四半世紀を経過した本作品の状態がいかなるものか、期待をもって実見に赴いた。
 コンクリート製の桁や支柱は美しく維持され、周辺の緑の成長になじんでいる。特に支柱と斜面の接合部が簡素に収まっており、夾雑感がないのが秀逸である。階段の曲線部から眺める遠景が、歩き進むごとに変化する効果もすばらしい。高欄はアルミ鋳物で、進行方向の視線が抜けるよう丁寧なディテールで工夫され透過性が高い。
 全体として非常に良い経年変化の味わいを感じる作品であった。エイジングという価値を改めて評価をすることができたという意味で、とても意義のある議論を行なえたことを応募いただいた関係者に感謝したい。(須田)

 巨大な団地の小さな橋を目指して車を走らせると、緩やかな登り坂の先にその歩道橋があった。完成後すでに24年が経過していて、さすがに橋面には経年劣化が見られるが、端正な
佇まいをしっかり残している。車道から正面に見たときのスレンダーな姿が特に秀逸であるのは、主桁の断面の先端部が細く絞られているのと、高欄のバラスターの上端も細められていて笠木が支持無しで水平に浮いているように見えるからだ。
 このバラスターは中間に穴を穿ってあるので、なめらかで優雅な螺旋階段を上がり、橋の進行方向を見ても高欄の視線の透過性が極めて高い。装飾的な効果もさることながら死角を作らない優れたデザインでもある。8月の昼下がり、老婦人がゆっくり渡って行ったのも、安心出来る人に優しい橋だからだろう。
 小さな橋であるが、全体のバランスとディテールや素材に配慮が行き届き、望遠でも近景でも接写でもフォーカスが合っているのは、賞賛に値する。(武田)