選考結果について

最優秀賞

内海ダムUchinomi Dam

香川県小豆郡小豆島町神懸通地先
多目的ダム(洪水調節、流水の正常な機能の維持、水道)

内海ダム上流域は名勝寒霞渓を含む瀬戸内海国立公園が広がり、堤体の直下流には既存集落が近接していた。事業計画にあたっては、周辺自然景観との調和と下流集落からの圧迫感低減という景観面での配慮が重要課題であった。こうした要請に応えるべく、基本計画段階である平成12年度から景観検討を開始し、平成17年度に「内海ダム景観検討委員会」を発足、平成25年度に至るまで計10回の委員会を開催し、実に14年間に亘り地道な景観づくりのマネージメントを行った。高度成長期以降のダム事業において、堤体の座取りや道路計画から景観検討を行った稀有な事例である。
ダム堤体に関しては、丁寧なデザインを心掛けた。遠景に対しては天端のスカイラインが形成できるよう3つの操作室を堤体内に格納するとともに、高欄内蔵型照明を採用した。近景に対しては、洪水吐部の線と面を統合し構造美を追求、堤体下流面に横ラインを配して集落への圧迫感の軽減に努めた。
内海ダムの景観づくりの最大の特徴は、造成計画や緑化計画などによる『見せないための』アースデザインである。その中でも、ダム軸と垂直に交わる中尾根を残置した造成デザイン、堤体下流側の大規模盛土(土捨場)、湖周道路の線形変更や造成アバットメント工法の採用による掘削法面の最小化、法枠工を用いない法面緑化など、近代のダム建設としては画期的な取り組みに挑み続けたことである。
内海ダムは、当初の事業費を大幅に削減している。景観設計という観点で計画・設計だけでなく施工計画まで大胆な変更をしたことが経費削減に寄与している。大規模土木事業の景観設計は「お化粧」では無く「事業全体のデザイン」が重要であることを実例として示すことができた。
堤体下流側の盛土は地元の子供たちの協力のもと、どんぐりの森づくりが行われ、絶滅しかけたホタルも再生しつつある。10年、30年後に緑に覆われたダムとして地域に溶け込んだ存在となることを願う。

《主な関係者》
○高須 祐行(株式会社クレアリア(当時)、八千代エンジニヤリング株式会社(現在))/14年間に亘る景観マネジメント
○小栁 武和(茨城大学(当時)、茨城大学(名誉教授)(現在))/景観検討委員会委員、内海ダム景観アドバイザー
○井上 大介(株式会社クレアリア(当時)、株式会社東京建設コンサルタント(現在))/細部デザイン
○齊藤 瑛璃香(株式会社クレアリア(当時)、八千代エンジニヤリング株式会社(現在))/植栽デザイン
《主な関係組織》
○内海ダム景観検討委員会/8年間述べ10回の委員会を開催し、内海ダムのデザイン検討、事業の景観面のコントロールを担った
○香川県土木部河川砂防課/事業者であり、内海ダムが景勝地寒霞渓との調和するよう組織として尽力した
《設計期間》
1983年9月~2014年3月
《施工期間》
2006年4月~2014年3月※付替道路工事含む
2009年12月~2013年5月※本体工事工期
《事業費》
122億2千万円
《事業概要》
型式:重力式コンクリートダム
集水面積:4.8k㎡
ダム高:43m
堤頂長:423m
総貯水容量:1,060千㎥
洪水調節容量:580千㎥
不特定容量:145千㎥
水道容量:190千㎥
水道取水量:2,000㎥/日(内新規1,000㎥/日)
《事業者》
香川県
《設計者》
株式会社クレアリア(旧 株式会社アイ・エヌ・エー)
《施工者》
飛島・田村・安井特定建設工事共同企業体

講評

真南に向いた斜面中腹に横たわる長さ400mを超えるコンクリートの堤体。これを目立たせず、風景におさめるには、堤体前面の盛り土以外に方法はない。しかしそれはタブーであった。そのタブーに挑んだことがまずこのプロジェクトの特筆すべき点である。さらに、ダムの堤体をまたいで尾根が残されている。既存ダムの改修という事情があったにせよ、見たことがない。この大胆なかたちは、計画貯水量を満たしつつ、ダムの見えの大きさを抑え、コストを下げるという、まことに合理的な選択の結果であった。一つ一つ異なる条件下で最適な答えを追求し、前例にとらわれない合理的な唯一解としての設計をすること。インフラストラクチュアの原則ともいえるこの思考を、規準や前例の名の下に放棄しがちな現状に、大きな刺激を与えてくれた。その勇気と粘り強い取り組みに心から敬意を表したい。
こうしたチャレンジとともに、正統派の景観デザインが細部に至るまでの完成度を高めている。どのダムでも苦労する機械類を堤体内に格納して天端ラインをすっきり整え、至近の内部景観にも質の高いディテールを提供する。管理事務所は多くの視点場から見えない位置におさめながらも、訪ねてみれば質の高い建築として迎えてくれる。隣接道路の法面、堤体下の広場から集落へ降りる道路にも、うるさく言わねば実現できないきちんとしたおさまりが体現している。14年間にわたる景観マネジメントの紛れもない成果である。規模によらず、内海ダムが成し遂げたダムデザインのブレイクスルーに多くを学びたい。(佐々木)

日本三大渓谷美の一つ、寒霞渓を源とする別当川は、標高差700mを4kmで海まで下る急勾配の河川である。本ダムはその中間に位置し、初代は上水道利用の重力式コンクリートダム(堤高14m)として、二代目はその下流面に土石を盛立て、洪水調節機能を付加した多目的コンクリート土石混成堤(堤高21m)に改良され、半世紀以上地域を守ってきた。その外観は緩傾斜のロックフィルダムであり、写真で見る限り下流集落にとって違和感の少ない姿である。今回対象の三代目は、更なる機能向上を目的に、50m下流側に旧ダムを飲み込む形で、四国最長となる重力式コンクリートダム(堤高40m)に再生された。
コンクリートダムは通常、渓谷河川を堰き止めて造るため、下流側からは逆三角形の大規模なコンクリート構造物に見える。本ダムでは別当川が流れる西端にこれを配し、残り2/3範囲は二代目の類似手法でアースダム風に造成された。更に旧ダムの支えでもあった中尾根を活かし、一帯を森林化することで、ダムの存在感を逆三角形部分に集中させている。選考会では、森を目指すなら盛土法面は定規断面とせずアンジュレーションをかけるなど、自然に寄ったやり様がある等の意見も出たが、そもそもコンクリートダムの堤体下流面へ盛土をしたり、貯水池内に中尾根を残すなど、ダム計画上のタブーを記憶に倣い実現し、その存在感を大幅に低減させた実績が評価された。
勿論、ダム堤体の構造デザインは秀逸で、徹底した管理施設の整理と正調な造形、人に近しい天端空間や管理棟には細やかな配慮が見られるなど、バランス感覚に優れた傑作である。(高楊)