選考結果について

奨励賞

福島潟河川改修事業River Improvement in Fukusimagata

新潟県新潟市
福島潟周辺の自然遊水を防止するための遊水池

公園内の湖岸堤の整備(「水の公園福島潟」自然学習園内の築堤)
○作品の概念
本作品は、「水の公園福島潟」(福島潟湖畔にある観光・交流施設、観光客数:年間約30万人)の公園(自然学習園)内での湖岸堤の整備である。
そのため、築堤することによる公園利用者や観光への影響の抑制、公園の美観の維持、河川環境の整備・保全などが求められた事業であった。
そこで、景観や環境への配慮などに取り組むことで、周辺環境とも調和した、景観に優れた作品を完成させたものである。
○作品の特徴
平成9年に新潟市(旧豊栄市)が整備した「水の公園福島潟」は、福島潟河川改修事業の整備イメージを先取りしたものであった。
公園内の湖岸堤の整備にあたり、利用・景観・環境保全の観点から十分な配慮を行ったものである。
(1)福島潟河川改修事業における環境保全対策の方針を実現する
・湖岸堤の整備は、福島潟内の掘削土を再利用するとともに、堤防の表面には現地で発生した土を用いることで、元々の自然植生の回復を図った。
(2)ビュー福島潟の利用と景観に調和するデザインとする
・堤防法線を既存計画から変更した。
・緩傾斜堤防とすることで、圧迫感の軽減を図り、公園の利用に配慮した。
・バリアフリーに配慮した。
(3)関係機関との協議により地元の意見・要望を取り入れる
・潟来亭の周辺空間の利用スペースを確保した。
・堤防を越えているという感覚を与えないデザインとした。
・福島潟から見える五頭連峰の風景を活用した。
・キャンプ場にある高木を保全した。
(4)施工時に利用・環境に配慮する
・各種イベントの開催に配慮した。

《主な関係者》
○志田 俊彦(新潟県新潟地域振興局地域整備部)/湖岸堤の詳細設計・施工を発注・指導・監督、関係機関との調整
○大熊 孝(新潟大学工学部教授(当時)、新潟大学名誉教授、新潟市潟環境研究所所長(現在))/福島潟河川改修事業環境保全対策検討会議会長、環境保全対策の全体統括
○池村 彰人(株式会社東京建設コンサルタント)/福島潟河川改修事業環境保全対策検討会で、目標の設定、具体的な環境保全対策を検討
○柚木原 裕二(株式会社東京建設コンサルタント)/福島潟河川改修事業環境保全対策検討会で、検討会の運営、計画図の作成
○広田 剛(開発技建株式会社)/公園との一体化を図るため関係機関との協議を行い、湖岸堤の詳細設計に反映
○伊藤 信哉(開発技建株式会社)/公園と一体化した湖岸堤の詳細設計
○高橋 広行(株式会社吉沢組)/湖岸堤の施工
《主な関係組織》
○新潟市(旧豊栄市)/自然に調和した公園整備を計画した
○ビュー福島潟/関係機関として公園利用と調和した湖岸堤整備について意見を述べた
○NPO法人ねっとわーく福島潟/関係機関として公園利用と調和した湖岸堤整備について意見を述べた
○前新田町内会/関係機関として公園利用と調和した湖岸堤整備について意見を述べた
《設計期間》
2013年4月~2013年10月
《施工期間》
2014年3月~2015年3月
《事業費》
全体事業費:172億円、公園内の湖岸堤整備費:1億円
《事業概要》
1.福島潟河川改修事業
(1)計画諸元
①洪水計画
治水安全度 1/30
流域面積 118.1㎢
計画2日雨量 308.4㎜/48時間
②河道計画
縦断勾配 レベル
堤防天端幅 5.0m
計画高水位  T.P.+1.70m
堤防余裕高 1.0m
(2)事業概要
築堤(湖岸堤) 延長9,400m
掘削 土量約78万㎥
水門 福島潟水門
承水路の拡幅 延長2,350m、幅30~80m
沈砂池 折居川合流部 面積 約3万㎡
(3)事業進捗状況
全体事業費 172億円
事業期間 平成15年度~平成31年度(予定)
事業進捗状況 平成27年度当初まで、142億円(進捗率83%)
事業内容 承水路掘削・護岸工、湖岸堤整備(樋管)、附帯工事他
2.公園内の湖岸堤の整備(「水の公園福島潟」自然学習園内の築堤)
築堤延長 824m
事業期間 平成25年度~平成26年度
《事業者》
新潟県新潟地域振興局地域整備部治水課
《設計者》
株式会社東京建設コンサルタント(計画)
開発技建株式会社(設計)
(設計協力者)
ビュー福島潟
《施工者》
株式会社吉沢組
(施工協力者)
新潟市(旧豊栄市)

講評

 8月21日、日曜日午前11:00、晴天。ビュー福島潟屋上から252haという広大な潟湖(せきこ)を見渡す。夏の盛りの潟の風景に大きく気持ちを揺さぶられる。審査の対象となるのはこの北面のごく一部、北側道路から緩やかにすり上がり南遠方の山に続く湖岸堤である。道路に降りると、屋上から広々と見えていた潟の水面は見えない。タクシーの運転手が、安心安全のためだからしようがないが、潟が見えなくなって寂しいと話してくれたことを思い出す。しかし、通常の湖岸堤嵩上げ工事の断面では道路のすぐ脇から土盛りがなされ人工的なラインとなっていたことを想像すると格段に優れている。緩傾斜の湖岸堤は、潟と周辺とを緩やかに繋ぎ、潟へのシークエンスを生み出して福島潟の魅力を抽き出した。審査はちょうどハスの花の頃、潟舟でハスの群生の真ん中に入ったこと、ハスの実や懐かしいヒシの実の甘さなど、潟の魅力は五感をもって味わうものであろう。福島潟全域の整備が待たれる。(吉村(純))