東京都渋谷区
店舗、自由通路等
本作品は、東急東横線地下化に伴う線路跡地として創出された線形敷地に、魅力的な都市空間の創造によって地域の課題解決および新たな賑わいの創出をし、周辺地域の活性化を図ることを目的に、緑豊かなパブリックスペースとそこに併設される商業空間を創造した開発計画である。渋谷・代官山・恵比寿の中心に位置する計画地において、概ね10年の暫定活用の中で、周辺の街を変化させ、新たな賑わいの拠点を創ることで、沿線の魅力向上に寄与すると共に、各駅前の賑わいを駅間へと広げ、街と街をつなげていくことを目指している。
5棟の建物を配置した賑わい空間は、代官山という街が培ってきた小さく個性的な建築のスケール感を継承している。緩やかな勾配で蛇行しながら渋谷側へ下っていく四季折々の花と緑豊かな散策路は、建物をつなぐだけでなく、かつて線路によって分断されていた東西の街をつなげ、散策路を主軸に周囲から人々が通り抜け、回遊できる歩行者空間とした。また各所にテラスやベンチを設けることで、滞留空間としても機能し、街の利便性と快適性の向上に資することで、地域に新たな人の流れを生み出している。建物外壁のレッドシダー材は時間の経過と共に味わいのある色に変化し、花や緑は敷地に馴染んで、四季折々の景色を形作りながら、地域の活性化と共に作品自体も成長するデザインとなっている。
計画地は、代官山エリアの中で来街者が少ない地域であり、開発事業上、高い収益性は見込めない場所であった。その様な敷地に対し、目一杯の建物を建てるのではなく、あえて緑豊かで魅力的なパブリックスペースを創り、そこに商業空間を併設することで、空間自体を集客装置とした。パブリックスペースの整備により地域の課題解決を行うと同時に、その空間に集まる人々によって、併設された店舗や敷地周辺の商店等に賑わいが生まれ地域が活性化することで、民間企業として合理的な収益性の確保も実現している。
東横線の地下化によって生み出された鉄道跡地。敷地幅最小10m、平均でも16mという狭隘な土地。代官山から渋谷に向かって傾斜があり、両側にもそれぞれ数メートルの高低差がある。敷地条件が悪い上に、高い収益性も見込めない。その空間が、実に魅力的な空間に生まれ変わった。
鉄道ルートに沿って東側に幅員約2mの散歩道、西側に5棟の建物が配置されている。散歩道の脇にはコンクリート擁壁がそびえているが、壁際に植栽を配置して圧迫感を感じさせない。建物外壁はすべて木造(レッドシダー)で、暖かみを感じさせる。要所に木製のベンチやテラスが設置されていて、くつろげる空間になっている。散歩道の起終点にレストランが配置されているところもよい。入り口に人のにぎわいがあり、ログロード空間に人を誘う。実見後、代官山駅側のテラスでオリジナルビール6種類セットを楽しんだ。大人の道草ができる散歩道は魅力的だ。
緑のパブリックスペースを創り、そこに商業施設を併設することで新たなにぎわいを生み出すというコンセプトが素晴らしい。鉄道で分断されていた東西の街をつなぎ、新たなにぎわいの空間を生み出すことで、安全な歩行環境の確保、暗がりの改善など地域の課題解決にも寄与。周辺地域の活性化にもつながっているという。民間企業ならではの先進的なプロジェクト。素晴らしい。(吉村(伸))
何ともおしゃれで印象的な空間が生まれた。東横線の地下化により創出された空間であるから、代官山通り、鉄道地下構造物及び東側境界部の擁壁という複雑なレベルの処理が必要となる。この仕事では地形へのきわめて適切な解が示され、渋谷側にそびえる清掃工場の高い煙突に向かって伸びている。それまでは鉄道によって分断されていた街の東西がこの路によって結びつけられた。数カ所ある建築と建築との間に現われる法面は、廃材の枕木などで抑えられ原地形の特徴を感じさせてくれる。
緩やかに蛇行する敷地には代官山のスケールを継承する5棟の建築が巧みに配置され、決して広くない敷地であるにもかかわらず、おおらかな空間が提示され東側擁壁の圧迫感をほとんど感じさせない。これは素材感ある建築のレッドシダー材の外壁、地被から高木に至る多種多様な植物の扱いに大いに負っている。使われている素材は決して高価なものではない。枕木やコンクリート、どぶづけの手摺など、素材と素材の組み合わせ方や、手作り感を残したデザインが秀逸で、チープさはまったく感じさせない。今後代官山通りへの賑わいの創出や、渋谷方面への成長も大いに期待でき、10年の暫定利用ではもったいないと感じた。(吉村(純))