選考結果について

優秀賞

富山市 市内電車環状線Toyama Loop Line

富山県富山市
路面電車システム

市内電車環状線では、LRTをシンボルとした魅力ある都市景観を目指し、一貫したコンセプトに基づき、軌道空間から街路や沿道空間に至るまでトータルにデザインを行った。
■全体のデザイン
LRTが走る新しい都心の風景として整備区間が富山都心地区の顔となるよう、市内電車関連施設と道路関連施設のが調和した個性的で質の高い街路景観の形成が必要と考え、以下のようにコンセプトを設定した。
全体コンセプト:
富山都心の魅力を楽しむ・LRTのある新しい風景づくり
基本方針:
1. 各ゾーンの3つの異なる個性を強化した景観づくり
2. 富山らしい眺望に配慮した景観づくり
3. 人々の活動や賑わいを誘発する多目的に使える空間づくり
■各街路のデザイン
路線毎(県道富山高岡線、市道大手線(大手モール)、市道総曲輪線(平和通り))の特性を見極め、それぞれの景観形成のテーマを設定した。 
その上で、延伸区間全体で共通化する要素、各路線で個性化する要素の整理を行い、各路線の個性化を図りながらも、富山都心地区の共通イメージを創出する街路景観の形成を目指した。
■主な特徴
・「富山市中心市街地活性化基本計画」の国の第一号認定を受け、同施策の先導的な役割を担った
・「地域公共交通活性化及び再生に関する法律」を適用し、軌道事業としては全国初の「上下分離方式」の事業手法を採用した
・都市計画の変更からわずか1年10ヶ月という短期間で事業を進めた
・トータルデザインのプロセスを導入し、車両や電停だけでなく景観を含めた統一感のあるまちづくりを目指した
・富山市の伝統的なまつりや季節の催しにあわせた演出として、車両のラッピングとバナーの掲示を計画し、人・まち・車両が一体となったイベントの創出を図った
・路面電車の南北接続を見据え、富山港線との車両のデザイン統一を図った
・車両の愛称募集やベンチの寄付など、市民に愛着を持ってもらえる仕掛けづくりを行った

《主な関係者》
○宮沢 功(株式会社GK設計(当時)、株式会社ワイピーデザイン(現在))/トータルデザイン・ディレクション
○森 雅志(富山市 市長)/環状線構想立案
○笠原 勤(富山市 副市長(当時)、株式会社建設技術研究所(現在))/市内電車環状線化推進
○廣瀬 隆正(富山市 副市長(当時)、国土交通省大臣官房技術審議官(都市局担当)(現在))/市内電車環状線化推進
○門脇 宏治(株式会社GK設計)/トータルデザインチーム統括
○島津 勝弘(島津環境グラフィックス有限会社)/グラフィックデザイン、地元関係者との調整
○橋場 啓介(パシフィックコンサルタンツ株式会社)/基本・実施設計
《主な関係組織》
○トータルデザインチーム(GK設計、GKインダストリアルデザイン、GKデザイン総研広島、島津環境グラフィックス、富山市都市整備部路面電車推進室)/車両、停留場、VI、市民参加、および街路、公園等のトータルデザイン
○市内電車環状線化デザイン検討委員会/環状線化に関する各要素デザインの検討・デザイン案の承認
《設計期間》
2007年1月~2009年12月
《施工期間》
2008年3月~2009年12月
《事業費》
3,033,000,000円
《事業概要》
立地環境
 市内電車環状線(富山都心線:丸の内三丁目~大手町~西町)及び沿道街路景観
主要施設
 面積:約3.4ha
 延長:約940m
 電停数:3箇所(国際会議場前、大手モール、グランドプラザ前)
 軌道:単線
 軌間:狭軌
 軌道構造:樹脂固定軌道
 レール:溝レール
 電気の種類:直流600v
 電気の供給方法:架空単線式
《事業者》
富山市
《設計者》
パシフィックコンサルタンツ株式会社
株式会社GK設計
(設計協力者)
島津環境グラフィックス
《施工者》
佐藤工業・朝日建設JV
日本道路・林土木JV
富山地鉄建設株式会社
朝日建設株式会社
辻建設株式会社
辻建設・伊原組JV
朝日建設・野村土建JV
株式会社高田組
株式会社林土木
朝日建設・林土木JV
日本海建興・武田建設JV
辻建設・高田組JV
山岸建設・陽光興産JV
松原建設株式会社
株式会社森崎
神高・富工建設JV
株式会社今浦
河上金物株式会社
金岡忠商事株式会社
有限会社ホクショー
ウエマツ建設工業株式会社
株式会社ジャパンシステム

講評

 JR富山駅と一体となっているLRTの駅から乗り込む。モノトーンの色彩と落ち着きのあるインテリア、そして大きな窓が、街をめぐる期待感を醸成してくれる。街なかで車両を見かけてもLRTの存在と街の景観との対比が、美しさとヒューマンスケールを奏でている。トータルなデザインを目指した成果が風景となって結実している。評価したい。
 路線は、3街路に分かれているが、全体の統一感とそれぞれの個性を持つことができていて、めぐって楽しい街に寄与している。材料や色彩計画、ファニチャーの繊細な選択等によるものだが、様々な要素が入り組む都市環境において実現しているのは、関係者の連携があってのことであり、素晴らしい事業実施体制だったことがうかがえる。また、まちのスケールをよく読み取っており、電停を含めて場所の居心地の良さにつながっている。広幅員の車道と隣接する街路は、軌道敷と歩道空間の距離が遠いので、さらなる工夫が必要だと感じたが、今後のイベントや沿道の賑わいの滲み出しなどによって、より良い街路景観となることを望みたい。この事業により市内をめぐる環状線となった。富山市の掲げるコンパクトなまちづくりを進める上で大きな意味を持つ。これを契機にまちの賑わいが生み出されることを期待したい。(忽那)

 LRT、街路空間、電停、ストリートファニチャーに至るまで、トータルな景観デザインである。モダンなデザインのLRTの車両が富山市の街にとても似合う。3色の車両があるが、特にブラックは現代的な町並みにも伝統的な建物のある町並みにも合うように思う。裏表を感じさせない秀逸な電停のデザインと共に『歴史的な町にはレトロなもの』と言うような安直な解答を覆す好例だろう。街路空間は、城址公園、大手モール、平和通り、の3区間でそれぞれの領域の特性を反映したデザインとなっている。特に大手モールエリアのデザインが素晴らしく、居心地の良い場所となっている。歩車道の一体的舗装、広々とした歩道幅員の確保とアキニレの街路樹、緩やかな曲線道路が大きな効果を発揮している。道路幅員26.9m中、両側合わせて15.9mの歩道幅員は実に街路の60%に及び、フラットで歩車道の文節の無い全面御影石仕上の路面が、気持ちの良い空間の広がりを提供している。マンホールや横断歩道や白線など工夫を凝らした敷石の丁寧な仕事、ハンギングバスケットのある照明塔なども目に楽しい。それだけに、無電柱化と路面電車の架線の相反する問題の解決が今後の課題だろう。(武田)


※掲載写真撮影者は左から1・3枚目が室澤敏晴(室澤写真事務所)