【北海道旭川市】
用途 / 旭川 駅周辺複合市街地、河川空間 、鉄道駅
北彩都あさひかわは、国鉄跡地を中心とした約82haの土地区画整理事業、函館本線などの旭川駅の高架化、国の旭川地方合同庁舎の建設、隣接する忠別川の河川環境整備そして、鉄道立体化と対となる忠別川への新橋の架橋を同時一体的に進めたプロジェクトである。その実施にあたっては旭川市は民間の都市プランナーであった加藤源に総括を委ね、この総括調整者によりプロジェクトは組み立てられ、具体化されていった。事業主体による事業具体化のための取り組みかた景観形成の調整まで、調整者はこの地区形成に必要な事項の全てに関与し、コントロールした。この総合的な都市デザインが当地区の最大の特色となる。
ランドスケープから街を作る、との狙いのもと、地区全体の空間構想はアメリカ人のランドスケープアーキテクトであるウィリアムジョンソンに依頼した。鉄道、橋梁など多くの土木施設整備を含むことからその土木デザインの全体調整役として篠原修が加わった。鉄道駅の設計者は鉄道事業者と調整の上新鋭の建築家であった内藤廣とした。ウィリアムジョンソンが描く構想を現実のものとする設計は、下田明宏が率いるD+Мが担当。プロジェクト後半で川沿いへの展開が決まった「ガーデン」は北海道で事務所を構える高野ランドスケープが担当した。このように、当地区はそれぞれの分野で力量あるデザイナーを調整者である加藤を中心とした推進主体が選定し、それぞれのデザインを調整しつつ進めたところにもう一つの特色がある。
具体的な調整は関係者が一同に会する「北彩都あさひかわまちづくり推進会議」の場で設計図を持ち込み具体的に議論し、必要に応じて現場に出かけてデザイン調整を進めた。基本構想時代から施設のフィニッシュまで20余年の間、調整者を含めて一貫した推進体制が取られたことが、この空間や施設実現の鍵となった。
多彩な職能総掛かりの長期プロジェクトである。しかも、計画・設計対象は駅舎、駅前広場、
公園、河川敷、橋梁、鉄道連続高架橋、建築群にわたる。これらすべてに目配りし、調整を継続するような企ては今後まず登場しまい。さて、それではこれをどう評価するか。画期的な仕組みでも結果が伴わなければ評価し難い。だが、結果とは何か。
設計対象個々別々の出来か。正直に言って、個々別々にみると、これまで単独で授賞した作品レベルには達していないもの、箇所も少なくない。十種競技のような総点方式ならこの仕事を正当に評価できるのだろうか。いや、一体的な計画・設計を意図したのだから、
その点を吟味すべきだろうと思い直した。そのつもりで見ると驚くべきことは多い。駅舎の際から南側に華やかな庭園が広がり、それがそのまま河川敷に繋がっている。こんな駅がどこにあるだろうか。その駅に、川を渡り、公園を横切って列車がやってくる。大雪や十勝の山々を遠くに見ながら公園のゆるやかな起伏を歩いているとそのまま花畑のような川岸に行き着く。
公園から木立を経て続くひろやかな芝地には、管轄を異にする複数の建物が一団地で計画されたかのように立地している。およそ「隔て」というものがない。事業主それぞれが敷地境界を実体化したがるというのに、このプロジェクトではいとも簡単に克服してのけている、かのようにみえる。さながら奈良公園のようなのびやかさである。
いっぽう、所々に未利用地も残り、荒涼とした景観もあって評者個人としては不満なしとしない。が、皆に押し切られた。(齋藤)
ひろびろ・ゆったり・のびやか、スムーズ・メリハリ・一体感、10月初旬爆弾低気圧の中、
河川空間および駅周辺市街地を歩き廻った場所場所での印象である。北海道らしい広さ、
居心地の良さ、施設の連続感や共同意識、デザインの質の高さが一貫して感じられた。特に、シビックコア地区の建物群が、異なる組織・目的・整備時期にも係わらず、公開広場を中心に境界を感じさせない一体的な配置・デザインに仕上がっている点。粘り強い膨大な調整の成果との事、縦割り行政を調整する制度的な改革に繋がれば良いと思う。また、川と街を繋ぐ宮前公園や高水敷に整備された左岸広場では、人に優しいアンジュレーションが歩行景観を変化させ、柵もなく行動も自由。深呼吸をしたくなる居心地の良さだ。宮前公園には駐車場や児童公園、トイレや休憩施設が配置され、広大かつ雪国の地域配慮も感じられる。惜しむらくは、生態階段部の石貼りと直線的形状が、唯一人を歓迎しない感じがしたこと、販売中の未利用地が物悲しい印象なことである。新設された3つの橋梁は、地域分断を解消するに十分な機能と落ち着いた美しさを有している。橋は水平方向に長い構造物なので、その連続性確保がデザインの勘所である。上部工最外の地覆・高欄面/フェイシアラインを地盤までスッと連続させ、これを阻害する橋脚や照明等の縦要素はその位置を揃え同形態とする。排水や電気施設は維持管理に配慮して上手く隠す。これら定石がどの橋も順守されている。駅から離れた新神楽橋は、適度なアーチの存在感が位置を探る目印としても機能している。(高楊)