【岐阜県各務原市】
用途 /道路橋
各務原大橋は旧各務原市と旧川島町との合併を期に架橋されたものである。デザインは各務原市主催のもと、平成17 年10 月から平成18 年1 月にかけて実施された全国規模の設計プロポーザルによって、応募総数21 案の中から、市民約450 名の参加を得た公開プレゼンテーション等を経て、選ばれたものである。
案の選定後も、斬新なかたちを確認するため、全長120m の実寸法模型を市民公園に公開してフィンバックの高さや曲線形状の決定過程を公開した。また、約3,300 枚の「名前入り刻印タイル」を歩道部分に設置する等、設計・施工の節目において、市民の思い出になるイベントを実施しつつ、平成25 年3 月に開通した。
デザインのポイントは下記の通りである。
(1) この地をはぐくんできた木曽川という雄大なランドスケープの自然を引き立て、それと調和し、融合するシンプルな橋として、緩やかな曲線のうねりがそのまま橋本体のシルエットを構成し、背景の山並と相互に対話するデザインとして「PC10 径間連続フィンバック橋」を創案した。(2) 歩車道分離位置において、構造を支えるフィンバックが波のように上下し、視線と自動車走行音を適度に遮ることで、装飾ではなく構造物本体によって、渡りゆく人々が水と緑を感じながら楽しく渡れる工夫とした。また、特徴あるかたちを柔らかい光によってライトアップし、昼とはまた違った景観を楽しめるようにした。(3) 用事が無くても歩いてみたくなるよう、要所にバルコニーや橋詰め空間を設け、自然を感じる空間を創造し、朝日夕日等の眺望を楽しめるようにした。また、自然石の笠石、ベンチ、手ざわりのよい鋳鉄製の柵など、丁寧にデザインを積上げた。(4) 橋に至る道路は、その周囲に高木を植樹し、森を抜けて川のオープンスペースへというシークエンスを演出した。また、周辺に住まわれる方々には高架構造物を遮蔽しながらも風がぬけるような高架下公園を実現した。
フィンバック形式は、箱桁の腹板を支点付近で上方に肥大させ翼壁状とし、これにPC ケーブルを配置した構造である。連続桁では支点近傍で負の曲げモーメントとせん断力が極大化するが、翼壁部にこれを受け持たせる仕組みで、桁下に余裕がなく、かつ橋面を低く抑えたい場合に有効な構造のひとつである。多径間の橋では翼壁が波打つように列をなすが、各務原大橋では、主桁断面の外側にブラケットで歩道を取り付けているため、翼壁列が歩車道境界に現れている。この橋の見どころは、主桁断面の両側縁を円弧状としたことの造形的な引き受けかただと思う。翼壁は、円弧の接線方向に延長されたかたちで歩道側にやや傾斜して現れ、歩道上でその存在感を強めている。外縁を曲線としたブラケットは、曲面をなす桁側縁と相和すとともに、中を抜かれて繊細な綾を生み出している。小判型断面の橋脚は河川橋の定番だが、やや先すぼまりの立面にしたことでこの桁とよく響き合っている。地上部の桁の曲面の仕上がりも美しい。合点がいかないのは、展望スペースの散漫な広がりと置き石、フェイシアラインのぎこちない歪み、配管類が無粋にもブラケット中抜き部を貫いていることなどである。
(齋藤)
9 月の快晴の日に現地を訪れた。遠くに木曽の山並みを望む広やかな田園景観、水量豊かな木曽川と緑濃い河畔林。こうした環境に架かる橋梁をデザインできるとは、なんと羨ましいと思いながら。この橋は「10 径間連続フィンバック桁橋」とあるが、この構造形式ひとつをとってみても設計チームの深い思いを読み取ることができる。横断面で見るとちょうど円筒の下部1/3を切り取った部分を、シェルのような主構造としてフィンバックを組み合わせ、中路式としたことなどから、とにかく周辺景観を阻害しない軽やかな橋を創りたいという基本姿勢が明確に伝わってくる。フィンバック頂点部の形状については審査会でも議論が分かれたが、私はやわらかなイメージに好感を持った。その成果は下流左岸側から本橋を眺めると、とてもよく理解できる。橋のシルエットがまさしく一枚の板を渡した様に薄く感じられ、遠くの山並みも河畔林の緑も遮蔽しない。歩道を支えるPC のブラケットによるリズム感や精度感も心地よく、高欄などの工作物の造形も主張しすぎない節度を持っている。両岸の高架下の広場も作り込みすぎを抑えた簡素な施設構成でまとめ、とてもよい印象。構造とアクティビティと形態が高い次元で調和した橋梁である。(須田)
※掲載写真撮影者は左から3枚目(株)山田照明、その他は全て松井幹雄