岩⼿県二戸市金田一字湯田41
複合施設(ホテル、公衆浴場)、都市公園
岩手県二戸市で、市民に親しまれてきた公設公営の温浴施設の建て替えを、パブリックマインドを持った、民間主導の公民連携事業によって推進したプロジェクト。温浴、宿泊、飲食、活動の舞台としてのテラスからなる複合施設を、敷地である金田一近隣公園(都市公園)と⼀体的に整備した。
⼆⼾市北部に位置する金田一温泉郷は、古くは南部藩指定の湯治場として栄えていたが、旅館数及び観光客数は減少の⼀途を辿っている。そんな中、平成10年に開業した旧金田一温泉センターは、⼀時的な集客に寄与したものの、施設の⽼朽化や維持管理費の増加が深刻化し、施設の建て替えと安定した運営体制の構築が喫緊の課題であった。また、金田一近隣公園には1970年の国体会場ともなった屋外50Mプールがあり、地域の誇りでもあったが、1年のうち⽔泳シーズンの2ヶ月以外は安全管理のため閉鎖されており、プール単体での収⽀のバランスを考えると改修に踏み切れない状況であった。当初は施設のみの建て替えの予定であったが、地域のコミュニティの場としての温浴施設を実現するにあたり、このプール及び公園との関係を再構築することが必要と考え、Park-PFIを活用して⼀体的な整備⾏うこととなった。
全体計画として、施設と都市公園をつなぎ、施設と公園を⼀体的に利用ができること、できる限り周辺エリアと境界を設けないことで、地域に開かれた活動の舞台となることを目指した。50Mプールを起点に既存の地形を活かしつつ全体の断⾯及び平⾯を検討、プールの周囲はデッキ敷のテラス空間として、公園及び施設からそのまま自由に出入りできる関係性とし、シーズン以外にも親水空間としての活⽤も可能にした。
2022年3月の開業以来、マルシェや⾳楽イベントなどの定期的な開催や、プールを使ったサップやヨガ教室、周辺エリアも含めたアウトドアアクティビティと合わせて、地域ならではの楽しみ方が広がっている。
金田一温泉の再生を目的として、閉館した金田一温泉センターと地元のシンボルである50mプールをセットで再生し、地域の2つの課題を同時に解決した。新たな客層であるビジネス客や一人客の宿泊ニーズが生まれていて、温泉街回遊の拠点となり地域の人の居場所にもなっている。
以前はフェンスで分断されていた温泉センターの高い地面を低くして、プールや駐車場と同じレベルにし、柵はなく一年を通して自由に往来できる。公園と民間建物との境はテラスでつながり、建物1Fの飲食やラウンジスペースは公園の一部のように使われている。
地元の人材や人気旅館が参画するまちづくり会社が官民連携で自らリスクを取り推進。民設民営の浴場・レストラン・ホテルと公共事業であるプール等公園施設を一体的にデザインし、いずれもこの会社が運営することによりデザインから運営までトータルに質を保っている。
この会社が精力的に地域内外の人が楽しめる音楽イベントやマーケットを企画している。たまたま出会ったDJイベントでは、子供がプールで遊び親はプールサイドでビールと音楽を楽しむ他で見たことのない風景が広がっており、まさに親子の原風景になりうる場所が生まれている。(泉)
古びた「カシオペアランド金田一温泉」のゲートが迎えてくれる、かつては栄えていたであろう金田一温泉郷は、時間が止まっているかの如く老朽化した施設がポツポツと点在するまちであった。人の気配が感じられないこのまちの中心に、突如として多くの人が集い、賑わう場所が存在する。それが「カダルテラス金田一」である。温浴、宿泊、飲食、プールが公園と一体的に整備され、まちに開かれている。驚いたことに、有料のプールゾーンですら、フェンスや目隠しが一切なく、どこまででもふらりと入れてしまう計画だ。これを許容するのは、地方都市に残る古き良きおおらかさであり、人々が築き上げてきた信頼関係の故であろう。公民連携事業によって成し得たこのプロジェクトが、地域のポテンシャルを掘り起こしたのは間違いなく、今後この賑わいが温泉郷全体の活性化につながっていくことを期待したい。施設(建築)はいささか閉じた印象で、もう少し内外を緩やかにつなぐ境界要素が取り入れられなかっただろうか、と思わなくもないが、プロジェクトの巧みな組み立てから完成後に市民に親しまれるためのきめ細やかな運用まで、丁寧かつ着実に進められたことは高く評価できる。(栃澤)