選考結果について

奨励賞

横瀬川ダムYokozegawa Dam

高知県 宿毛市 山奈町 山田
多目的ダム

横瀬川ダムは、渡川水系四万十川支流中筋川の左支川である横瀬川の高知県宿毛市山奈町山田地先において、洪水調節、流水の正常な機能の維持、水道用水の供給を目的として建設され、平成11年4月に供用開始した中筋川ダムとともに、中筋川総合開発事業として中筋川流域の治水・利水・環境に貢献する多目的ダムである。
横瀬川ダムの下流には水神が宿っているという地元の信仰対象であるトドロの滝や、雨乞いの行事が行われる祠が存在し、周辺には絶滅危惧種「ヤイロチョウ」が生息するシイ・カシの天然林が分布しており、これらを保護するために地形改変を最小限に抑える必要があったことから、「環境負荷最小限を目指したエコダム」というコンセプトを設定した。
ダム本体形状は世界初の側水路減勢方式を採用し、通常はダム直下流に設ける減勢工を堤体下流面に配置し、発電設備・放流設備室もダム本体内部に大空間を設け内蔵・一体化することで、下流側の改変範囲を抑えた特徴的な形状のダム本体が創出された。
下流側の側水路から越水した水流を受け止めて減勢させる堤趾導流壁が階段状に立ち並ぶ複雑な形状となり、左右岸の眺望スペースから眺めた時の煩雑さを軽減させるよう形状の整理を行った。また、エレベーター上屋と水位計室上屋を同一形状とすることで、シンメトリーなシルエットを実現し、姉妹ダムである中筋川ダムの上屋形状と揃えたデザインを採用した。
天端道路が公道であることから、車両用防護柵と歩行者用転落防止柵、間接光の手摺り照明と天端橋梁の桁側面を一体で隠す化粧カバーを兼ねた、プレキャスト壁高欄を考案し、シンプルで連続性のある天端空間のデザインを実現した。
ダム堤体下流側のプレキャスト壁高欄には、クライミング用の吊り金具を設置し、日本で初となる堤体下流面を利用したクライミング施設を整備し、宿毛市観光協会で予約利用が可能となり、市民に開かれたダム施設として活用されている。

《主な関係者》
○三浦 義典(八千代エンジニヤリング株式会社)/設計全体統括
○小川 篤志(八千代エンジニヤリング株式会社)/景観設計、意匠監理
○森岡 晃史(八千代エンジニヤリング株式会社)/景観設計
○神田 貴行(八千代エンジニヤリング株式会社)/ダム本体設計
○重山 陽一郎(高知工科大学 教授)/事業景観アドバイザー、全般のデザイン指導
○森本 修三(国土交通省 四国地方整備局 中筋川総合開発工事事務所 副所長(当時)、株式会社建設マネジメント四国 大洲営業所 所長(現在))/事業の総括監理
○増田 稔(国土交通省 四国地方整備局 中筋川総合開発工事事務所 事業対策官(当時)、株式会社建設マネジメント四国 四万十営業所 副所長(現在))/現場総括、デザイン実現に向けた調整
○渡辺 雄二(国土交通省 四国地方整備局 中筋川総合開発工事事務所 調査設計課長(当時)、国土交通省 四国地方整備局 渡川ダム統合管理事務所 管理課長(現在))/現場総括、デザイン実現に向けた調整
○坂東 良太(国土交通省 四国地方整備局 中筋川総合開発工事事務所 調査設計係長(当時)、国土交通省 四国地方整備局 河川部 河川計画課 調査第一係長(現在))/デザイン実現に向けた調整
《主な関係組織》
○国土交通省 四国地方整備局 中筋川総合開発工事事務所(当時)/事業者
○八千代エンジニヤリング株式会社/全体統括・ダム本体設計、景観設計・意匠監理
○西松建設株式会社/ダム本体デザインの具現化・施工
○日軽エンジニアリング株式会社/高欄・手摺りデザインの具現化・施工
○日本ヒューム株式会社/天端壁高欄デザインの具現化・施工
○一般財団法人水源地環境センター/クライミング施設の企画
○東商アソシエート株式会社/クライミング設備の具現化・施工
《設計期間》
2002年6月~2019年7月
《施工期間》
2016年6月~2020年5月
《事業費》
約400億円(税込み)
《事業概要》
【ダム】
堤 高     72.1m
堤頂長     188.5m
堤体積     170,000m³
天端標高    EL.152.5m
基礎岩盤標高  EL.80.4m

【貯水池】
集水面積     11.4km²
湛水面積     0.4km²
設計洪水位    EL.150.3m
サーチャージ水位 EL.145.8m
常時満水位    EL.131.9m
最低水位     EL.108.6m
総貯水容量    7,300,000m³
有効貯水容量   7,000,000m³
洪水調節容量   3,800,000m³
流水の正常な
機能の維持容量  2,980,000m³
水道容量      220,000m³
堆砂容量      300,000m³
《事業者》
国土交通省 四国地方整備局 中筋川総合開発工事事務所(当時)
国土交通省 四国地方整備局 渡川ダム統合管理事務所(現在)
《設計者》
八千代エンジニヤリング株式会社
〈設計協力者〉
一般財団法人水源地環境センター
《施工者》
西松建設株式会社
日軽エンジニアリング株式会社
日本ヒューム株式会社
東商アソシエート株式会社

講評

2001年に土木学会デザイン賞優秀賞を受賞した中筋川ダムと共に、中筋川総合開発事業として中筋川流域の治水・利水・環境に貢献する多目的ダムである。「環境負荷最小限を目指したエコダム」を標榜するこのダムの最大の見どころは、世界初の側水路減勢方式を採用である。
ダム直下流に位置し、水神が宿ると地元が信仰しているトドロの滝を保全すべく、通常はダムの直下流に、副ダムなどとともに相当な長さで設置される減勢工を、堤体にくっつけるように設置したものが、側水路減勢方式である。まるで、カンガルーのポケットのようで可愛い。小水力発電所を堤体内に組み込むなど、滝の保全に対する技術的な工夫の積み重ねは、画期的で素晴らしい。
一方、デザインという視点から見ると、天端道路の高欄や上屋の形状など様々な工夫を行っているが、それらが、この技術的な挑戦と一体的なものとなっているのか、疑問が残る。評者としては、今までにないダムのデザインと出会いたかった。(星野)