選考結果について

奨励賞

丹生川ダムNyukawa Dam

【岐阜県高山市丹生川町】
用途 / 多目的ダム

 丹生川ダムは高山市の山間部に建設された小規模な多目的ダムである。平成8~9(1996~97)年度の堤体景観検討委員会において堤体デザインを検討し、堤体打設が後半に差し掛かった平成18(2006)年より平成24年の竣工まで、各要素について景観検討を継続的に実施した。特筆すべき事項としては、堤体のデザインを水理模型実験で検証しながら設計することで実現した用強美のバランスのとれた造形にできたこと、管理棟と広場の施工時にデザイナー自身が意匠監理を担ったことが挙げられる。
 ダム堤体及び貯水池は自然豊かな山々に囲まれており、四季折々の景観を楽しむことができる。ダム事業の環境整備としての誘客施設は最小限とし、自然景観の保全及び調和を重視した景観づくりを目指した。来訪者の活動拠点は、堤体天端の左岸側の管理棟及び外構広場に集
約。建設費・維持管理費のかかるポケットパークなどは設けないものとし、貯水池上流側の土捨場は高山市民の有志の手で森づくりを進めている。
 ダム景観の主役はダム堤体である。丹生川ダムは静寂な山間部にひっそりと佇む水瓶をイメージし、やさしいイメージでデザインした。堤体下流側の導流壁はV字形の谷に沿うように漸縮型とし、三枚からなる帯状の段差によって強調した我が国でも初めての特徴的なデザインである。上流面は、越流部を曲線状の張り出し形状とするとともにそれを支えるピアを配し、常時満水位になった時の倒景を含めた美しく優しい造形を実現した。
 堤体や貯水池が印象的に見える位置に視点場を設定し、来訪者がアクセスしやすいよう整備した。特に左岸天端下流側には遊歩道を設置し、堤体を間近に見られる場所を設けたほか、堤体及び貯水池全体が一望できるよう管理棟屋上を来訪者に解放するテラスとして整備した。

《主な関係者》
◯高須 祐行(株式会社クレアリア(当時)八千代エンジニヤリング株式会社(現在))/
デザインコンセプト立案、関係機関の意向調整トータルコーディネイト
◯篠原 修(東京大学(当時)NPO法人GSデザイン会議(現在))/総合調整、デザイナー
選定、堤体景観検討委員会委員
◯一丸 義和(アジア航測株式会社)/堤体デザイン
◯川村 宣元(川村宣元建築設計事務所)/管理棟建築デザイン、管理棟意匠監理
◯吉谷 崇(株式会社 設計領域)/左岸天端広場デザイン、広場意匠監理
《主な関係組織》
○岐阜県宮川上流河川開発工事事務所(施工当時)/事業の実施
○丹生川ダム堤体景観検討委員会/堤体デザイン基本構想検討
《設計期間》
1989 年4 月~2014 年3 月

《施工期間》
2003 年3 月~2014 年5 月
《事業費》
約267 億円
《事業概要》
【ダム諸元】
ダム形式:重力式コンクリートダム
堤高:69.5m
堤頂長:227.0m
堤体積:231,000㎥
計画高水流量:200m3/s
ダム設計洪水流量:630m3/s
ダム天端標高:EL 873.5m
【貯水池諸元】
集水面積:23.0k㎡
湛水面積:0.32k㎡
総貯水容量:6,200,000㎥
有効貯水容量:5,300,000㎥
堆砂容量:900,000㎥
設計洪水位:EL.871.0m
サーチャージ水位:EL.868.0m
常時満水位:EL.857.0m
【管理所諸元】
建築面積:302.20㎡
延床面積:497.84㎡
【右岸広場諸元】
敷地面積:2680㎡
《事業者》
岐阜県宮川上流河川開発工事事務所(高山土木事務所)

講評

 街道を車で目指すと、山並の稜線を横切って一瞬、水平線を持つ白い色が見える。もしや、あれが目指すダムか、と思う間もなくそれは視界から消え二度と姿を現さない。
 トンネルを抜けてダムに進入し、広々とした天端道路を渡ると洗練された管理棟や休憩所などがあり、気持ちの良いランドスケープデザインの広場がある。左岸の歩廊も、ダム下流面の勇姿を見る数少ないポイントして嬉しい。トンネル出口周りの少し残念な法面処理を見ながら上流側に廻ると、堤体中央の神殿の様な列柱が湖面に写り込み、風景に程よい焦点と陰影を与えている。下流側は天端道路を受ける垂直の付け柱の間から下る、シンメトリーを強調したV字型の導流壁が特徴的な姿を見せているが、地形のせいか軸線が折れ、無造作に配置されたように見える放流棟の配置が気になる。
 ダムに関連する一つ一つの造形要素は丁寧に設計されているが故に、数多い造形言語の今ひとつの関連性が欲しかった。(武田)