鳥取県境港市大正町地先~本町地先
都市再生整備事業 街路改修 高質空間創出事業
1993年に誕生した「水木しげるロード」は、境港市出身の水木しげる氏著作の妖怪ブロンズ彫刻を歩道内に設置してきた街路で、当初はメディア等で大きく取り上げられ、官民一体のまちづくりによって全国的な観光地として定着した。しかしながら近年は観光客が激減し高齢化による空き店舗も増え、看過できない衰退がみられたため、街路改修による観光地再生をめざし事業がスタートした。
本計画は、JR境港駅から東方向にひろがる全長約800mの街路のリニューアルで、観光客がより快適に歩いて楽しめることを念頭に「一方通行化による歩道拡幅と道路線形の見直し」「177体のブロンズ像の再配置」「舗装デザインの見直し」「街路樹の整備」「ベンチやサインの設置」「照明によるナイトミュージアム」など他に類のないエンターテイメント性を持つ観光地ならではの街路空間をめざしたものである。
道路は車道の縮小によって大きな歩行空間を生み出すよう線形を大幅に変更し、各部の素材やデザインが大きく見直された。例えば歩道の舗装材には地域の石である来待石を粉砕し石板化したオリジナルの平板を開発するなど地域性を意識した素材や意匠が取り入れられた。植栽には、樹形が妖怪的な「枝垂れエンジュ」を列植するなど、妖怪がテーマの町ならではの独自性のある風景の創出が図られた。
また「ブロンズ彫刻を芸術として楽しめること」をめざし、すべての彫刻はストーリー性を持って再配置している。リニューアルの最大の目的は来街者数のV字回復であったため、何をもって大きな変化を導けるかは、設計チームにとって重要なポイントであった。故に来街者の希薄な夕刻・夜間ににぎわいを獲得する方策として、妖怪の町ならではの公共照明による新たなエンターテイメント性の付与を図った。
供用開始初年度の一次経済波及効果は250億円超を記録し、空き店舗が無くなるなど、本事業の地域における貢献は絶大である。
上質な仕上がりの街路である。車の一方通行化により車道を縮小してゆったりした歩道空間を創出、ベンチや車止め、光、樹木などは十分に考え抜かれて配置され、沿道の町並みも楽しく、快適にそぞろ歩きが楽しめる。ひとつひとつの要素は、既設新設まぜこぜだがトータルとして嫌味のない造形群にまとめられ、妖怪オブジェも違和感なく空間にとけこんでいる。ていねいで密度の濃いハイレベルの仕事である。ただ、アーケード区間に入ると空間の質が落ちる点が残念で、減点対象となった。審査の場では、これはテーマパークではないか(=土木の賞が称揚すべき対象か)、という意見もあった。しかし、20年近くも地元が取り組み続けてきた妖怪をテーマとするまちづくりである。そこに敬意を払い、土木空間としてていねいに読み解き再編し、従前より魅力的な町並みに再生してみせたその姿勢と手腕には、まぎれもなくシビルの心が宿っている。本賞にふさわしい佳品である。(中井)
※掲載写真撮影者は左から1-3枚目は下村康典、4-6枚目は鈴木文人
※掲載写真中の水木作品(ブロンズ、影絵)は©水木プロ