長崎県長崎市
主要施設のライトアップと周辺の景観照明整備
全国の自治体でワーストクラスの人口社会減が続く長崎市は、新たな基幹産業確立に向けた「交流の産業化」と、市民が誇れる「ふるさとの風景の創出」に取り組んでいる。これまで「長崎ランタンフェスティバル」や「長崎さるく」(まち歩き型観光)等、長崎の地形、歴史、文化、人を活かした取組みが多くの市民の参加により成功、定着したことで、夜間景観に対しても稲佐山山頂等から見下ろす「特別なもの」から、まちなかを散策しながら楽しめる「日常的なもの」へとニーズが拡大してきた。
2016年、長崎市は面出薫氏にデザイン監修を依頼し、夜間のまち歩きワークショップや市民シンポジウム等で得られた市民意見を反映させながら「環長崎港夜間景観向上基本計画」を策定、2017年度からは国土交通省の景観まちづくり刷新支援事業も活用して、約4年間で本夜間景観整備を実現した。
基本計画では、長崎のまちの個性を表現するための3つのコンセプト(「港に流れ込む輝き」「おおらかに彩られたまち」「祈りを誘う灯り」)と7つの視点(「快適な陰影」「適正な色温度対比」等)を設定した。その上で10の重点整備エリアについてエリアコンセプトと整備イメージを提示した。
長崎市は、施工段階においても、基本計画の実現のために面出薫氏に監修を依頼し、全エリアで点灯実験による現場協議を行い、照明の位置、高さ、角度等について関係機関等も含めた調整を行なった。あわせて、機器の位置や色彩等、昼間の見え方についても1箇所ずつ調整を行なった。
事業完了時には、各エリアで点灯式を開催し、まちなかの日常に魅力的な夜間景観が実現した喜びを市民と関係者で分かち合った。夜間のまち歩きツアーやイベント等の活用策は新型コロナウイルスの影響ですぐには取り組めていないが、身近な生活環境への意識が高まる中、日常性や場所性を重要視した夜間景観の公共性はむしろ高まっている。
長崎にはこれほどの史跡があったのか、改めて認識を深めさせられた。市民にとっては見えていた日常の風景が、日が暮れるとともに一層おもむきを増しながら浮かび上がってくる、そんな感覚ではなかったか。本夜間整備は平和公園、出島、東山手・南山手エリアといった市中心部全体を対象とし、一過性の点でなく、まちの面的な総合演出を達成している。その裏には、全エリアで点灯実験による現場協議が重ねられ、丁寧な整備プロセスがあったことも特筆しておきたい。例えば平和祈念像の右手や大浦天主堂の尖塔といった重要な意味を持つ箇所には、遠方からピンポイントの照明が当てられるなど、その絶妙な位置、高さ、角度、色温度等は、各施設の象徴性や造形的魅力を見事に高めている。ライトアップ自体の主張がなく、柔らかい光によって港町長崎の個性が立体的に映し出されている。一般来訪者の中には、照明が当たっていることを忘れて夜景を楽しんでいる人も少なくないのではないか。実見の際にも美しく照らされた施設を撮影する人々に何度も遭遇した。まちの滞在型観光の魅力を高めるとともに、郷土への誇りを再認識させた土木のデザインとして、本夜間景観整備を称賛したい。(柴田)
本事業は、観光都市である長崎市中心部の総合的な夜間景観計画として、主要観光エリアの夜間景観を改善整備した事業である。
本作品の議論においては「土木デザインであるのか」が大きな論点となったが、都市を面的にとらえその既存魅力を活かすこと、既にある景観を総合的な視野を持って面的に磨くことは都市計画分野以外では実現できないことであり、歴史の積み重ねを前提とする本デザイン賞の対象であるとして審査員一同から評価された。
平和公園や眼鏡橋、出島など主要な観光エリアにおいて、その周辺の夜間景観を広範囲に見直しており、各所を訪ねてみたくなる観光魅力が整備された。また、その手法はランドマークのライトアップや手すり間接照明、小さなあかりの付与など静かで控えめともいえる上質なデザインであるが故、住まう人にとっても愛着と誇りをもてる豊かな日常環境が生み出されている。
都市の夜間景観の重要性が語られだして久しいにも関わらず景観法の中にその項目が無いこともあって都市全体としての夜間景観整備に取り組んでいる自治体の数はまだごく少数である。本事業の受賞がそういった未着手の都市における1つの指針になればと切に思う。(長町)
※掲載写真撮影者は、Lighting Planners Associates