神奈川県藤沢市藤沢555番地先
ペデストリアンデッキ・駅前広場
完成後40 年近くが経過し、施設老朽化、植樹繁茂等を原因とする死角発生による治安不安等の課題解消のため、ユニバーサルデザインへの対応や駅周辺の再活性化に向けたリニューアル事業として企画された。
整備コンセプトは『湘南・藤沢Garden Gate』とし、「様々な立場や世代の人々が、憩い、つながる場を創出し、様々な時間の楽しみ方を育む場」を目指した。構造物としては、耐震補強済みの既存の構造躯体を活かし、その設計荷重を増加させないことを条件とした。
イベント時のテント配置、電源や排水の確保、来場者の移動や行動、等の課題と、日常使いの快適性やバリアフリー化を同時に満足する解決法を模索。例えば、エレベーターのかご寸法を救急体制の充実に繋がるストレッチャー対応とすることで、イベント資材の運搬の利便性も確保。主要動線を2本用意することで、イベント時の人流の渋滞軽減と日常利用の回遊性向上等、デザイン構想段階で種々検討整理して計画に反映させた。
地上から生育している既存大木を保全し、その木陰が落ちるベンチ含め、デッキ全体に座れる場所を用意(総延長140m)。イベント時にはステージとしても活用する場所は人工芝とし、座りやすさに配慮した。
構造面では、軽量化と現代的な装いへの更新のため、コンクリート製壁高欄をガラス高欄と鋼製多柵高欄へ改修、分厚い均しコンクリートを剥がしての浮き床への改修等を実施。一方、デッキ上の歩行回遊性を高めるデッキの増床、植栽のための厚さ60cmの土壌基盤を確保するための床版位置の改修、スロープ新設の中詰め材へのEPSの使用等、軽量化とのバランスを計算しながら、必要な箇所には増床の手当ても実施。
竣工後は、コロナ禍のためイベント開催が減少しているものの、公共空間へのニーズは大きく、多くの方が思い思いの使い方で過ごしている。この「思い思い」の過ごし方を実現できたことが、設計者として嬉しく思っている。
駅からこのデッキに出ると、様々な様子の多くの人によく使われている光景が目に飛び込んでくる。木デッキや人工芝が巧みに配され、座る場所も豊富に用意されている。新しく挿入された素材は円などの強い図形でデザインされているが、空間全体の規模に対する大きさのバランスがよいためかあまりうるさい感じはせず、むしろパッチワーク状に切り分けられた空間が緩い部屋割りのように使われている。既存の形状を生かした改修であるためだろう、所々に新築では計画されないような不思議な行き止まりやポケットパーク状の空間があるが、それもまたデッキに憩う人々の振る舞いを程よく支えているように見える。
鉄道駅に隣接する広場のあり方として、人工地盤のペデストリアンデッキは決して新しい手法ではない。むしろ、駅前の景観が全国どこでも似たようなものになったことを象徴する施設として揶揄されさえするものだ。このプロジェクトは、そんなペデストリアンデッキが持つ可能性はまだまだあることを示した。これから各地でますます増えるだろうこうした改修プロジェクトにおいても、既存の土木施設への敬意と、その良さを引き出すデザインの姿勢は重要になるだろう。(石川)
およそ40年前につくられた少々くたびれた駅前ペデストリアンデッキを、現代社会に適合させたリニューアルデザインの作品。荷重増加を避けて長寿命化を図ることを前提に、舗装面や高欄などを更新して、利用面での改善や見通しの確保を実現している。
実見では、それぞれの利用者が多様な使い方をしている印象が強く残った。よく観察すると、利用者のアクティビティーを受け止めて支える丁寧な配慮を読み取ることができる。開放感のある駅前空間の中で大きな樹木を良質のアクセントとして残し、居心地のよい緑陰をつくっている。随所に設置された長いベンチは多くの人の気軽な休息を促し、人工芝の広場は児童生徒の自然なアクティビティーを誘発している。もともとある高低差や周辺の建物との接続における見え方の変化を上手く再解釈してデザインに落とし込み、魅力的な空間体験を演出している。
既存のデッキの特性を読み解き、その良さを磨き上げた本作品は、今後もますます増えて行くと思われるリニューアルの事業に向けた、良いお手本となると考えられる。しかし、以前の状況を貶めて現状を持ち上げようとする応募書類の書き方は少々気になった。(八馬)
※掲載写真撮影者は大村拓也