選考結果について

奨励賞

高山駅前広場及び自由通路Takayama Station square and the station passage

岐阜県高山市
駅前広場・東西自由通路

岐阜県北部飛騨地方に位置し、「飛騨高山」とよばれる高山市。旧市街の町並みは、国選定の重要伝統的建造物群保存地区であり、その生きた本物の伝統空間と、そこに重層する時間に引き寄せられて国内外から観光客が絶えない。
高山駅は、飛騨の玄関口として発展し、駅周辺は市街地化していたが、南北に走るJR高山本線により東西の往来が自由にできない状況にあった。本事業は、高山の顔づくりとして高山駅周辺区画整理事業と一体的に進められ、駅舎の刷新に合わせて東西に新たな駅前広場を整備し、これを自由通路によって連携しつつ、ユニバーサルデザインの観点から東西どちらからも利用できる橋上駅とした。
この事業で重視したのは、「高山らしさ」、そして訪れる人々への「もてなし」の空間表現である。地場材を中心に地域の伝統技術を徹底的に駆使しながら、独特の地方文化を高度に表現することを追求した。
自由通路内部には、地場産の木材を多用し、さらにユネスコ無形文化遺産である「高山祭」の祭屋台の一部を実物大に製作展示して、関連する伝統技術も加えたギャラリーを整えた。駅前広場にもこの考え方は継承し、メインの東口駅前広場では、交通広場やバス乗降場を南北に分散して、自由通路の正面に矩形の回廊で囲い込まれた「もてなし」の歩行者広場を配置、その内部に石畳を挟んで大小の水盤を置いた。来街者は、回廊広場で迎えられ、水面を渡るような形でまちに出る演出である。駅前広場内の舗装や石垣などは、基本的に全て地場素材であり、その造形は地域職人の高度な技術なくしては成立せず――というより、むしろそれを前提にしたデザインとなっている。さらに、回廊やそこから交通広場へ延びるキャノピーは柔らかな間接照明とし、その足元には無散水消雪装置を組み込んで歩行者動線として全天候に対応するとともに、消雪設備の地下水利用やアースチューブの設置など、熱源エネルギーの低減にも配慮した。

《主な関係者》
◯内藤 廣(株式会社内藤廣建築設計事務所)/自由通路設計監修、自由通路展示計画、駅前広場設計、駅前広場デザイン監理
◯南雲 勝志(ナグモデザイン事務所)/自由通路展示設計、駅前広場 照明、ストリートファニチュア設計、駅前広場デザイン監理
◯小野寺 康(有限会社小野寺康都市設計事務所)/駅前広場景観設計、駅前広場デザイン監理
◯神林 哲也(株式会社内藤廣建築設計事務所)/自由通路設計監修担当、自由通路展示計画担当、駅前広場設計担当、駅前広場デザイン監理担当
◯小笹 泉(株式会社内藤廣建築設計事務所(当時)IN STUDIO(現在))/自由通路展示計画担当、駅前広場設計担当、駅前広場デザイン監理担当
◯五十嵐 悠介(株式会社内藤廣建築設計事務所(当時)五十嵐悠介建築設計事務所(現在))/ 自由通路展示計画担当、駅前広場設計担当、現場監理(デザイン監理)担当
◯橋本 尚樹(株式会社内藤廣建築設計事務所(当時) 株式会社橋本尚樹建築設計事務所(現在)) /自由通路展示計画担当、駅前広場設計担当、駅前広場デザイン監理担当
◯出水 進也(ナグモデザイン事務所)/自由通路展示設計担当、駅前広場 照明、ストリートファニチュア設計担当、駅前広場デザイン監理担当
◯上條 慎司(有限会社小野寺康都市設計事務所(当時) 株式会社上條・福島都市設計事務所(現在)) /駅前広場景観設計担当、駅前広場デザイン監理担当
◯水谷 智充(株式会社千代田コンサルタント)/駅前広場基盤実施設計
◯川口 衞(故人)(株式会社川口衞構造設計事務所)/駅前広場 建築(観光案内所・駐輪場・東西キャノピー)構造設計
◯阿蘓 有士(株式会社川口衞構造設計事務所)/駅前広場 建築(観光案内所・駐輪場・東西キャノピー)構造設計担当
《主な関係組織》
◯高山市/事業主体
◯東海旅客鉄道株式会社/自由通路事業主体、自由通路設計監理
◯協同組合 飛騨設計センター/自由通路内 祭屋台関連展示監修
◯高山・祭屋台保存技術協同組合/自由通路内 祭屋台関連展示制作
◯ジェイアール東海コンサルタンツ株式会社/自由通路設計監理
◯株式会社森村設計/駅前広場 建築(観光案内所・駐輪場・東西キャノピー)設備設計
《設計期間》
2013年8月~2015年3月
《施工期間》
2015年4月~2018年3月
《事業費》
約58億円
《事業概要》
東口駅前広場 約5,500㎡
 鋼製回廊・キャノピー 洗出しコンクリート舗装+地場石材舗装 鋳鉄製ストリートファニチュア
 観光案内所:RC造+鉄骨造 50㎡
 駐輪場:鉄骨造 約300㎡
西口駅前広場 約3,400㎡
 鋼製キャノピー 洗出しコンクリート舗装 鋳鉄製ストリートファニチュア、木製ベンチ
東西自由通路
 延長 約120m
 幅員 6m
 鉄骨造 床:御影石/壁・天井:ヒノキ
 伝統工芸「祭屋台」展示
《事業者》
高山市
東海旅客鉄道株式会社
《設計者》
株式会社内藤廣建築設計事務所
有限会社小野寺康都市設計事務所
ナグモデザイン事務所
株式会社千代田コンサルタント
東海旅客鉄道株式会社
ジェイアール東海コンサルタンツ株式会社
〈設計協力者〉
協同組合 飛騨設計センター(自由通路内伝統工芸展示)
株式会社川口衞構造設計事務所(観光案内所・駐輪場・東西キャノピー 構造設計)
株式会社森村設計(観光案内所・駐輪場・東西キャノピー 設備設計)
《施工者》
高山駅改築工事共同企業体/ジェイアール東海建設株式会社・株式会社熊谷組(自由通路・駅舎施工)
株式会社杉建(西口駅前広場/土木)
株式会社井上工務店(西口駅前広場/キャノピー)
株式会社三久(西口駅前広場/造園・SF)
新井・林特定建設工事共同企業体/株式会社新井組・株式会社林工務店(東口駅前広場/土木)
飛騨建設株式会社(東口駅前広場/キャノピー)
株式会社洞口設備工業(東口駅前広場/設備)
株式会社エクス(東口駅前広場/造園)
株式会社門 造園土木(東西駅前広場/造園)
〈施工協力者〉
株式会社ウォーターデザイン(東口駅前広場/噴水設備)
カネソウ株式会社(噴水部特殊グレーチング開発)
高山・祭屋台保存技術協同組合(自由通路内展示)

講評

コの字形断面をした東西自由通路の力強い造形は、東西が結ばれたイメージを強く街に発信している。通路を抜けた先には、交通に邪魔されない市民のための広場が広がり、歴史的町並や、白山など山岳地帯への玄関口にもなっている。この駅から街へと滑らかに繋がる感覚は、交通機能の適切な配置のなせる技だろう。また随所に使用された地場産の木材は空間を暖かく包み、地元の工芸品の展示とも相まって、高山に到着したことを実感させてくれる。繊細なキャノピーの構造、精緻なディテール、周到に隠された構造体や照明器具など、極めて完成度の高い建築や広場が街に上質な場を提供している。しかしながら、洗練が極まるほどに「高山らしさ」から遠退く印象も拭えなくもない。観光客のみならず地元住民、登山客など、多彩な利用者が想定される中で、気楽に荷物を広げたり弁当を食べたりできるような広場だってあっていい。「高山らしさ」に正解はないのだが。(千葉)