選考結果について

奨励賞

トコトコダンダンtocotocodandan

大阪府大阪市西区立売堀六丁目から新町四丁目
河川敷地内の遊歩道と広場空間

トコトコダンダンは木津川沿いの遊歩道と広場空間からなる河川区域の護岸整備事業。
「防災施設としての堤防」と「人の居場所としての水辺」とを両立するランドスケープデザイン。
また仕組みのデザインや地域の自治に向けた市民活動の創造性により、現代における水辺のあり方を総合的に探求した作品である。
大阪府内の部局内連係や、大阪府立江之子島文化芸術創造センターが協働した官民協働の体制により、先進的な参加資格を問わない土木分野のデザインコンペを経て、2017年4月に供用開始した.設計から施工まで一貫してデザイナーが有責のもとに関わり、構想から竣工までのあらゆる過程において、行政、施工者、住民等、立場や専門性の違う人々の妥協ない尽力と対話が行われた.
堀川が埋め立てられた跡地であった敷地は、「カミソリ型」の防潮堤で囲われているが、この堤防の断面に階段状の構造物やスロープ状の盛土のデザイン描き加えることで、水とまちを面的につなぐやわらかな境界や、新たな人と水辺の関係を獲得している。
例えば、今まで触ることのなかった堤防が階段状に姿をかえることで、人がどこにでも座れる家具のような存在になり、住民が手入れのできる植栽帯は、堤防というインフラの風景を自らの手で耕しつくりかえていく機会を提供する。
「トコトコダンダンの会」によるアドプト活動では、河川空間において金銭のやりとりができないことを逆手に取り、地域通貨のような「トコトココイン」の導入により、緑化や清掃活動、それ以外の多様な利活用への道を探る活動が広まってきている。公共空間の可能性を自分の手で広げ楽しむ仲間を増やしながら地域の自治にむけたとりくみを継続的に行っている。
行政チーム内でもオーダーメイド品の適切な維持管理を行い、空間の質を後世に継承するための維持管理ガイドブックの策定プロジェクトが発足するなど、管理のありかたを再考する創造的なとりくみが行われている。

《主な関係者》
○岩瀬 諒子(岩瀬諒子設計事務所,東京藝術大学美術学部建築科研究助手(当時)岩瀬諒子設計事務所(現在))/デザイン統括者。コンセプト、基本設計や詳細設計(詳細設計はメーカー・コンサルタントと協働)、現場監理、その他プロダクトデザインに至るまで、設計監理を担った
○忽那 裕樹(E-DESIGN 代表取締役,江之子島文化芸術創造センター,プラットフォーム部門チーフディレクター)/プラットフォーム形成支援事業で空間づくりから利活用まで含めてデザインを最大限発揮するための仕組みづくりの中心的役割を担った
○栗田 拓(NPO法人トイボックス代表理事,トコトコダンダンの会 事務局長)/地域による利活用や植栽手入れを含むアドプト活動の中心的役割を担う。地域がデザインへの理解を高めるための調整も行った
○寺浦 薫(大阪府府民文化部都市魅力創造局文化課(当時)甲南女子大学文学部メディア表現学科准教授(現在))/プラットフォーム形成支援事業の行政側の中心的存在で、主にデザイン実現のための関係機関調整を担った
○月ケ洞 利彦(株式会社グリーンチーム)/緑で都市を豊かにする専門家。トコトコダンダンのランドスケープにおける植栽分野のアドバイザー。プランターなどの植栽を実務でも一部担当
○有賀 敬直(トコトコダンダンの会)/専門分野である地域活性化のスキルを用いて地域活動住民としての活動に携わる。トコトコダンダンの会のキーマンのひとり
○川上 卓(大阪府西大阪治水事務所(当時)大阪府都市整備部河川室(現在))/デザイン導入スキーム構築から設計段階における建設行政側の中心的存在で、デザイン実現のための関係機関調整を担った
○紙野 彰子(大阪府西大阪治水事務所(当時)大阪府安威川ダム建設事務所(現在))/デザイン導入スキーム構築から設計段階における建設行政側の中心的存在で、デザイン実現のための関係機関調整を担った
○新堀 満(大阪府西大阪治水事務所(当時)大阪府富田林土木事務所(現在))/設計施工時においてデザインを実現するための関係機関調整を担った
○船本 直宏(大阪府西大阪治水事務所(当時)大阪高速鉄道株式会社(現在))/デザイン導入スキーム構築から設計段階における建設行政側の中心的存在で、デザイン実現のための関係機関調整を担った
○本浪 隆之(大阪府西大阪治水事務所(当時)大阪府西大阪治水事務所(現在))/共用開始後の地域活性化のための活動を行政サイドからバックアップ維持管理スキームについても鋭意進捗中
○萩 信之(大阪府西大阪治水事務所(当時)大阪府安威川ダム建設事務所(現在))/設計施工にかかる多くの難題を統括マネージャーとしてスピーディーかつ的確に解決し、事業を実現した立役者
《主な関係組織》
○岩瀬諒子設計事務所/建築・土木分野のデザイン事務所。デザイン統括業務を行った。コンセプト、基本設計や詳細設計(詳細設計はメーカー・コンサルタントと協働)、現場監理、その他プロダクトデザインに至るまで、設計監理を担った。
○大阪府西大阪治水事務所/大阪府の建設系組織。所管する市内主要河川で、水都大阪再生のため、関係機関との連携・協働や、設計・施工の発注・監督を担う。ハード整備を主に担当。
○大阪府府民文化部都市魅力創造局文化課/文化力を活用して大阪の都市魅力を創造する取組みを実施する組織。enocoを所管している。本事業ではワークショップやデザインコンペスキーム構築などソフト面での整備を主に担当。
○大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco)/単独の部局では解決が困難な行政課題に対して、デザイナー、建築家、府民、専門家ら多様な立場の組織や人が”プラットフォーム”を形成し、対等な立場で対話し、アートやデザインなどをツールに、解決策を検討・提案する官民共同の体制づくりを支援。本事業では、コンペスキームの構築、ワークショップの運営、利活用の促進を主に担当。
○NPO法人トイボックス/こどもと若者の自立と成長を支えるソーシャルサービスを提供する組織で、教育、まちづくりを中心に活動している。地域による利活用やアドプト活動を促進し、デザインされた空間の価値を高めるための中心的役割を担っている。
《設計期間》
2012年9月~2017年3月
《施工期間》
2014年1月~2017年3月
《事業費》
470,049,450円
《事業概要》
面積:A = 4,300 m2
延長:L = 240 m (木津川左岸(松島橋~大渉橋)の区間、川沿い遊歩道部分)
主要用途:河川敷地内の遊歩道および広場空間
構造
 主体構造: 鉄筋コンクリート造、一部 築堤盛土構造
 杭・基礎: 鋼管矢板、一部 鋼矢板
特記事項:アイデアデザインコンペ方式を採用
《事業者》
大阪府 都市整備部 西大阪治水事務所
大阪府 府民文化部 都市魅力創造局 文化課
《設計者》
岩瀬諒子設計事務所
《施工者》
日宝建設工業株式会社
株式会社関西港湾工業
株式会社テックスバル
株式会社佐藤渡辺
太平洋プレコン工業株式会社
株式会社高橋造園土木
有限会社田上組

講評

低平地を流下する都市河川は、高い“カミソリ堤”によって川とまちが分断されることが多い。「トコトコダンダン」はこのような都市河川が直面する課題を克服し、水辺を再生する重大なヒントを我々に与えてくれた。最大のポイントは、入船をという川の横断方向に展開する空間によって“カミソリ堤”を緩勾配化したところである。注意深く観察すると、入船部で堤防天端ラインを堤内地方向に適度に引き込み、堤内地側と堤外地側の勾配を上手にバランスさせている。この結果、意識せずに堤防を乗り越え、水辺に近づいて木津川のパノラマを満喫できる。本作品の手法は、川と隣接した空地があれば、都市河川の水辺再生に応用できる可能性を有しており、今後大いに参考になるだろう。気になったのは「ダンダン」というコンセプトに引きずられ、使い勝手が悪いと推察される空間が散見されたことである。都市の水辺を再生した功績に比べれば些細なことはあるが。(萱場)


※掲載写真撮影者は左から1・4・5枚目が岩瀬諒子設計事務所、2枚目が日経コンストラクション、3枚目がトコトコダンダン会、6枚目が新建築社