選考結果について

優秀賞

桜小橋Sakura-Kobashi Bridge

東京都中央区勝どき二丁目2番先~晴海一丁目8番先
歩行者専用橋

桜小橋は、東京に残る歴史的な水辺・朝潮運河に架かる橋長87.8mのPC3径間連続ラーメン橋である。月島・勝どき・晴海地区の回遊性を高め、晴海通りの歩道混雑緩和と災害時の避難路確保のために計画された二つの橋のうち、勝どきと晴海を結ぶ歩行者専用橋である。
二つの橋が朝潮運河と月島川が交差する水面を挟むように架かることから、「歴史的な水辺空間の魅力を活かし、周辺地域および運河空間の回遊性を生み出すことで、今まで以上に地域の活力を向上させる歩行者専用橋と水辺空間」というデザインコンセプトのもと、橋と橋詰空間そして接続街路までをトータルにデザインした。
橋の全体シルエットは、水辺の魅力を引き立てることを意識し、薄い桁がふわりと浮いて見える形とした。シンプルではあるが、水上からの眺めも考慮した柔らかい曲面の桁下面や、桁と橋脚の一体的な形状、彩りを添えるカラフルな地覆タイルなど、上質で親しみを感じられるよう全体から細部まで丁寧にデザインしている。また橋上空間も、橋のたもとに向けて幅を広げ、暖かみのある舗装や水面を眺めやすく手触りの良い高欄、タイルや自然石を用いた端部の収まりにより、歩きやすく佇みたくなる空間を目指した。照明についても、屋形船などのアクティビティとともに魅力的な夜景をつくり、利用者の安心感も高めるデザインとした。
また、住空間の魅力向上と水辺へのアクセスの良さを両立した季節感あふれる橋詰空間や、行き止まり道路の利点を活かし車道と歩道の舗装を合わせることで歩行者優先の空間とした接続街路など、橋とともに地域の価値が高まる周辺整備を目指した。水辺の遊歩道の一部となる護岸には、築島当時の石を再利用し、地域の歴史の顕在化も図っている。
施工にあたっては発注者、設計者、施工者による現地でのサンプル確認等を実施しており、こうしたプロセスが空間の質と整備の一体性を高めることに寄与したと考えている。

《主な関係者》
○椛木 洋子(株式会社エイト日本技術開発)/設計全体統括
○井上 英公(中央区環境土木部道路課月島道路事務所(当時)中央区環境土木部道路課(現在))/設計調整・施工監理
○玉井 宏枝(中央区環境土木部道路課月島道路事務所(当時)中央区環境土木部環境政策課(現在))/設計調整・施工監理
○二井 昭佳(国士舘大学)/デザイン総括
○安仁屋 宗太(株式会社イー・エー・ユー)/橋梁・空間デザイン、各部詳細デザイン
○山田 裕貴(株式会社イー・エー・ユー(当時)株式会社Tetor(テトー)(現在))/橋面工の詳細デザイン
○小笠原 浩幸(株式会社イー・エー・ユー)/街路の詳細デザイン
○西山 健一(株式会社イー・エー・ユー)/橋梁・空間デザイン、各部詳細デザイン
○渡邊 康人(株式会社エイト日本技術開発)/基本検討段階における橋梁設計
○古閑 徹也(株式会社エイト日本技術開発)/橋梁詳細設計、擁壁詳細設計
○大久保 証文(株式会社エイト日本技術開発)/街路詳細設計
《主な関係組織》
○中央区/事業の構想および推進
○朝潮運河周辺における良好な歩行環境の実現に向けた検討会/架橋に関する合意形成、課題の整理
○株式会社エイト日本技術開発/全体マネジメント、詳細設計
○三井住友・古川建設共同企業体/デザインの具現化
《設計期間》
2009年12月~2015年3月
《施工期間》
2014年7月~2017年10月
《事業費》
約25億5千万円
《事業概要》
桜小橋
 構造:PC3径間連続ラーメン橋
 橋長:87.8m
 最大支間:45.0m
 有効幅員:4.5~5.5m
耐震護岸
 構造:鋼管矢板護岸
 延長:約49m
橋詰擁壁
 構造:逆T式橋台、重力式擁壁
 延長:約39m
橋詰
 面積:約433m2(勝どき側)+約66m2(晴海側)
接続街路
 延長:約220m
 幅員:10.91m
《事業者》
中央区
《設計者》
株式会社エイト日本技術開発
《施工者》
三井住友・古川建設共同企業体

講評

設計から施工まで、ていねいな質の高い仕事。構造デザインと空間デザインのバランスのとれた融合。じっさいに渡ってみると、とても気持ちのよい橋。模範演技を見せていただいた印象である。
とりわけ優れていると感心させられたのは、勝鬨駅側のアクセス街路から、朝潮運河を渡ってトリトン側に至る一連の空間の、きわめて自然な連続性である。一連の歩行者空間における、とくにディテールのデザインの密度と質が、一貫して高水準でまとめられていることが、その理由のひとつだろう。単体の橋を超えて、地域の回遊空間の創造を目指した設計チームの意思が感じられる。構造設計のレベルも高い。全体に、市街橋のデザイン思想の、ひとつのスタンダードを示しえていると思う。
満腔の敬意をうけるに値する誠実で質の高い仕事だと思うが、しかし最優秀にとどかなかった。都市の文脈や設計条件に鑑みてとても洗練された模範解である、ということを超えた、見る者をぐいと引き込むようなデザインの力の表出が、足りなかったか。個人的には、このチャレンジングな構造設計が、もうすこしフォルムや各部に表現されていてもよかったのでは、と感じるが、どうだろうか。(中井)

この作品は住宅密集地の勝どき地区とオフィス・商業施設・再開発の晴海地区を結び、運河で隔たれた地域の活力向上と朝通勤時の歩行者の混雑緩和を目的に、朝霧運河に架けられた歩行者専用橋である。
航路(幅40m、高さ4.5m)を跨ぎ、バリアフリー縦断勾配5%以下で晴海側は現地盤高さに合わせるため、桁高を1m(支間桁高比1/45)とする必要があった。
この桁高で、たわみ・不快振動を与えないという非常に厳しい条件の中、吊構造を採用せず、鋼床版桁でもなく、高強度コンクリートのラーメン構造を採用し、施工の担保を取りながら、スパンバランス1:2.2:1に対しても、中央径間を中空断面に側径間を充実断面+幅員拡幅で対処した、エンジニアリングデザインで解決したお手本である。 
3つの設計方針である、水辺とのつながりを意識できる。安全性・利便性・回遊性を高める。地域の歴史・文化や雰囲気を引き立たせる。を具体化し、非常にシンプルでスッキリした上質なデザインの橋梁である。
フェイシアラインが目立って、下の桁高を感じさせない断面の採用や、上下部工の接合部のハンチ形状、透明性のある高欄、支柱の地覆への納まり、可愛い地覆タイル、支柱と舗装目地の一致、排水溝、夜間の照明演出など、細部のディテールも素晴らしい。(丹羽)