選考結果について

奨励賞

トコトコダンダンtocotocodandan

大阪府大阪市西区立売堀六丁目から新町四丁目
河川敷地内の遊歩道と広場空間

トコトコダンダンは大阪市内中心部の西側を南北に流れる木津川において、水都大阪再生事業の一環で回遊性向上のために取り組んでいる遊歩道整備事業のうちのひとつで、松島橋から大渉橋左岸の240m 区間の遊歩道と、その中間に位置する広場空間(旧入堀)を併せた約4300m2 を対象とする.
職住連帯的な落ち着いた地域で、高潮対策のために整備された直立式のコンクリートで出来た、いわゆるカミソリ堤防により安全と引き換えに水辺とまちが分断されたこのエリアで、水辺のポテンシャルを最大限活かしてまちの魅力を高めるため、積極的にデザインを取り入れていくこととした。
そのため、事業主の大阪府は、都市整備部 西大阪治水事務所と府民文化部 文化課が部局横断で連携し、文化課所管の江之子島文化芸術創造センター(通称enoco)がプラットフォーム形成支援事業により、誰でも応募可能で実現性も高いデザインコンペスキームの構築、地域ワークショップの運営、利活用の促進等の制度設計補助業務を行い、西大阪治水事務所が設計・工事の発注や監督を行った。
コンペでは最優秀賞に岩瀬諒子氏の“だんだん畑でハマベをつくる”が採択された。
堤防に張出しスラブを設けて拡幅し、雛壇状にした護岸に、ストライプ状の花壇を配したランドスケープが、まちと水辺をつなぐやわらかな境界の風景を創出し、人々の暮らしを豊かにする水辺環境を創出する。
設計から施工まで一貫してデザイナーが責任をもって監修することとし、完成まで多くの関係者の協力を得ながら随時設計を検証・更新し、ディテールに一切妥協することなく進めることでデザインを統合し、コンセプト通りに実現したのが大きな特徴。
供用後は、まちづくり専門家の協力のもと、地域による利活用やアドプト活動も行われ広がりを見せており、より長い時間をかけて水辺とまちがあらたな一体性を育み、まちの暮らしを豊かにすることが期待される。

《主な関係者》
○岩瀬諒子(岩瀬諒子設計事務所、東京藝術大学美術学部建築科 研究助手)/施設のデザイン全般
コンセプト、設計、材料開発、パース・模型・図面作成、デザイン監修を担った
○忽那裕樹(E-DESIGN 代表取締役、江之子島文化芸術創造センタープラットフォーム部門チーフディレクター)/プラットフォーム形成支援事業で空間づくりから利活用まで含めてデザインを最大限発揮するための仕組みづくりの中心的役割を担った
○栗田拓(NPO法人トイボックス代表理事、トコトコダンダン会 事務局長)/手入れを含むアドプト活動の中心的役割を担う。地域がデザインへの理解を高めるための調整も行った
○寺浦薫(大阪府府民文化部 文化・スポーツ室 文化課)/プラットフォーム形成支援事業の行政側の中心的存在で、主にデザイン実現のための関係機関調整を担った
○川上卓(大阪府西大阪治水事務所(当時)、大阪府都市整備部河川室(現在))/デザイン導入スキーム構築から設計段階における建設行政側の中心的存在で、デザイン実現のための関係機関調整を担った
○紙野彰子(大阪府西大阪治水事務所(当時)、大阪府枚方土木事務所(現在))/デザイン導入スキーム構築から設計段階における建設行政側の中心的存在で、デザイン実現のための関係機関調整を担った
○新堀満(大阪府西大阪治水事務所(当時)、大阪府富田林土木事務所(現在))/設計施工時においてデザインを実現するための関係機関調整を担った
○田﨑真吾(大阪府西大阪治水事務所(当時)、大阪府副首都推進局(現在))/設計施工時においてデザインを実現するための施工方法提案や関係機関調整を担った
○船本直宏(大阪府西大阪治水事務所(当時)、大阪高速鉄道株式会社(現在))/デザイン導入スキーム構築から設計段階における建設行政側の中心的存在で、デザイン実現のための関係機関調整を担った
○萩信之(大阪府西大阪治水事務所)/設計施工時においてデザイン変更や提案、施工方法提案、関係機関調整を担った
《主な関係組織》
○大阪府西大阪治水事務所/大阪府の建設系組織。所管する市内主要河川で、水都大阪再生のため、関係機関との連携・協働や、設計・施工の発注・監督を担う。ハード整備を主に担当。
○大阪府府民文化部 文化・スポーツ室 文化課/文化力を活用して大阪の都市魅力を創造する取組みを実施する組織。enocoを所管している。本事業ではワークショップやデザインコンペスキーム構築などソフト面での整備を主に担当。
○大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco)/単独の部局では解決が困難な行政課題に対して、デザイナー、建築家、府民、専門家ら多様な立場の組織や人が”プラットフォーム”を形成し、対等な立場で対話し、アートやデザインなどをツールに、解決策を検討・提案する官民共同の体制づくりを支援。本事業では、コンペスキームの構築、ワークショップの運営、利活用の促進を主に担当。
○NPO法人トイボックス/こどもと若者の自立と成長を支えるソーシャルサービスを提供する組織で、教育、まちづくりを中心に活動している。地域による利活用やアドプト活動を促進し、デザインされた空間の価値を高めるための中心的役割を担っている。
《設計期間》
2012年9月~2017年3月
《施工期間》
2014年1月~2017年3月
《事業費》
約47億円
《事業概要》
面積:A = 4,300 m2
延長:L = 240 m (木津川左岸(松島橋~大渉橋)の区間、川沿い遊歩道部分)
主要用途:河川敷地内の遊歩道および広場空間
構造
 主体構造: 鉄筋コンクリート造、一部 築堤盛土構造
 杭・基礎: 鋼管矢板、一部 鋼矢板
特記事項:アイデアデザインコンペ方式を採用
《事業者》
大阪府 都市整備部 西大阪治水事務所
大阪府 府民文化部 都市魅力創造局 文化課
《設計者》
岩瀬諒子設計事務所
〈設計協力者〉
セントラルコンサルタント株式会社 大阪支店
株式会社復建技術コンサルタント 関西支店
株式会社エルクコンサルタント
東京製綱株式会社
株式会社佐藤渡辺
太平洋プレコン工業株式会社 大阪支店
大光電機株式会社
小岩金網株式会社
東京藝術大学 美術学部 デザイン科
《施工者》
日宝建設工業株式会社
株式会社関西港湾工業
株式会社テックスバル
株式会社佐藤渡辺
太平洋プレコン工業株式会社
株式会社高橋造園土木
有限会社田上組
〈施工協力者〉
東京製綱株式会社
東京藝術大学 美術学部 デザイン科 内山 耀一郎

講評

入り口はフト、現れた。以前の堤防の痕跡を残した入り口。川に向かう長い「抜け」が心地良い。境界部に作られた水平の「縁」のデザインは、ゆったりとした勾配を強調している。登り切るあたりで視線は左右の川に一気に広がる。対岸の既存の堤防との差を考えると、この解決方法でなかったら?と考えさせられる。ここが防潮堤であるとは誰も感じないであろう。この仕事は部局横断を連携するプラットフォームの形成や、デザイナーの力を最大限に発揮させるための仕組みなくしては到底達成できなかったであろう。敷地の形状やレベルを丹念に読み込むことによって達成されたデザイン、透水性コンクリートを含め、素材の新しい使い方にも共感する。
一方、残念なのは、コンペ時の計画模型やスケッチのように充実した緑陰を落とす樹木が少なかったことや、枯死した樹木が散見されたこと。時間が経ち人々に使い込まれることによって、ダンダンよくなることを期待したい。(吉村)


※掲載写真撮影者は左から1・2・5枚目が岩瀬諒子設計事務所、3・4枚目が日経コンストラクション、6枚目が新建築社