選考結果について

奨励賞

瀬下排水樋管及び石積み護岸と周辺施設群Senoshita sluice, masonry revetment, and attached facilities

福岡県久留米市瀬下町
放水路排水、内水排除、外水流入防止、溢水防止

国土交通省九州地方整備局が管理する瀬下排水樋管は、平成16年8月の豪雨を対象とした池町川床上浸水対策特別緊急事業により整備された池町川放水路が筑後川に合流する瀬下地区に整備されたものである。樋管の整備に合わせて、計画高に対して1m程度不足していた堤防高を上げる堤防整備と地域に最後に残っていた陸閘の閉鎖も同時に実施し、平成24年6月に完成した。
瀬下地区は江戸期初頭に筑後川の蛇行部をショートカット開削した捷水路に面している。捷水路開削後水天宮総本宮が遷座されて以来、川港として大きく発展した。現在川港や渡船の機能はなくなったものの、有名な筑後川花火大会では例年40万人以上の来場者で賑わい、筑後川流域の重要な景観地区のひとつとなっている。高水敷での散策やサイクリング、水面でのカヌー競技の練習や魚釣りなどの市民による日常利用も多い。
本樋管の当初設計案は、既存の石積み陸閘を撤去し定規断面上の護岸から門柱を突き出させ操作室上屋を配した一般的なものであった。これは、江戸期の石積み護岸や明治以降に水害対策として嵩上げされた石積み護岸と水天宮の鎮守の森により形成された独特な歴史的な景観と馴染まないばかりでなく、歴史的な石積みの消失と操作室上屋による景観破壊が危惧されたため、景観検討の作業を行うことになった。歴史的な石積みを極力保全すること、新規に構築する護岸にも石積みを採用すること、油圧による遠隔操作のアームゲート形式を採用してゲート開閉機構を堤体内に埋め込み操作室を堤内地側に配置すること、手すりや階段等の付帯施設のデザインを水天宮他と揃えること等により、樋管の機能と地域固有の歴史的景観との望ましい共存の有り方を模索した。
竣工後6年が経過し、コンクリート表面のエイジングや石積みの隙間からの植生の生育が進み、新設部分と歴史的な景観との馴染みは徐々にではあるがうまく進んでいると考えている。

《主な関係者》
○樋口明彦(九州大学准教授)/全体のデザイン方針の立案・デザイン指導、現場でのデザイン監理
○徳永浩之(国土交通省筑後川河川事務所(当時)、国土交通省宮崎河川国道事務所(現在))/設計段階の事業調整・管理
○永吉修平(国土交通省筑後川河川事務所(当時)、砂防エンジニアリング(株)(現在))/施工段階の事業調整・管理
○原和久(国土交通省筑後川河川事務所(当時)、国土交通省筑後川ダム統合管理事務所(現在))/現場での施工監理、施工業者との調整
○重松栄児((株)東京建設コンサルタント)/樋管本体・ゲート操作室の詳細設計
○伊東和彦((株)東京建設コンサルタント)/堤防護岸(漕艇場前大階段上流側)・周辺整備の詳細設計
○福本圭吾(三井共同建設コンサルタント(株))/漕艇場前大階段、堤防護岸(漕艇場前大階段下流側)の詳細設計
《主な関係組織》
○国土交通省 九州地方整備局 筑後川河川事務所/事業の実施、設計・施工の管理
○九州大学 景観研究室/全体のデザイン検討、現場でのデザイン監理
○(株)東京建設コンサルタント/樋管本体、ゲート操作室、堤防護岸(漕艇場前大階段上流側)、周辺整備の詳細設計
○三井共同建設コンサルタント(株)/漕艇場前大階段、堤防護岸(漕艇場前大階段下流側)の詳細設計
《設計期間》
2008年6月~2011年3月
《施工期間》
2010年3月~2012年6月
《事業費》
約5億円
《事業概要》
樋管諸元
 設置位置:筑後川左岸25k500-2.00m
 計画排水量:21.0m3/s
 樋管断面:幅4.2m×高さ2.3m×1連
 樋管延長:16.5m
 函体構造:鉄筋コンクリート
 ゲート形式:リンク機構引き上げゲート(アームゲート)

周辺施設
石積み護岸(保全・復元・新設)、堤防天端通路、堤防乗り越し坂路(川表・川裏)、川表階段、川裏階段、漕艇場前大階段、ゲート操作室、駐車場(広場)、高水敷プロムナード
《事業者》
国土交通省 筑後川河川事務所
《設計者》
株式会社 東京建設コンサルタント
《施工者》
株式会社 時里組
株式会社 南組
黒田建設 株式会社
株式会社 熊丸組
株式会社 豊国エンジニアリング
〈施工協力者〉
株式会社 藤本石工

講評

古くから日本三大暴れ川「筑紫次郎」の名で知られる「筑後川」沿いに鎮座する総本宮水天宮側の排水樋管整備事業。排水樋管は、平成16年市内の池町川放水路を抜く整備であったが、高水位には機能しないため堤防高を上げることと陸閘も閉鎖する新たな整備として平成24年に完成している。江戸、明治期などに石積護岸で形成された経緯など歴史が残る地域景観の改変を最小化することを目標に、歴史的な石積みと陸閘を可能な限り保全・復元している。竣工後6年が経過した石積護岸は、新たに復元・新設を施した箇所と歴史的な石積護岸と見分けがつかないほど、綿密な石積みによるエイジング効果をみせている。また、樋管は遠隔操作によるゲート開閉装置を堤体内に埋め込み、操作室を堤内地側に配置するなど、石積みによる歴史的な景観との馴染みを実現させる、河川インフラ機能と地域固有の歴史的景観との共存のあり方を示すモデルとなる事業として奨励に値すると評価された。(森田)