千葉県柏市若柴
調整池
柏の葉アクアテラスは、つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅周辺で進む「柏北部中央地区一体型特定土地区画整理事業」の一部として整備された従来型の調整池を、市民が憩える親水空間へと再生した公共空間のリノベーションである。駅から周辺へと開発が進むなか、将来開発用地中央に位置する調整池がもつ空間資源としての可能性に着目し、「見るだけの池から触れ合える水辺へ」をテーマに、まちづくりを推進する柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)を中心とした、公共(区画整理事業者:千葉県、管理者:柏市)と民間事業者(三井不動産を主とする周辺地権者)の連携による高質化が実現した。
設計にあたっては所有や管理区分を越えたまちと池との一体性を高めるべく,階段やブリッジを新設して回遊性を高め、手摺の意匠を極力軽やかにするなど,まちの賑わいが視覚的にも物理的にも池へとシームレスに繋がることを狙って空間をまとめた。池への入口となるゲートは周辺を含めた動線計画に基づき6か所に限定して整備、安全性、管理面に配慮した。また、既往の貯留容量を保持する為,テラスやステージ等の施設を日照条件のよい北側斜面に集約し、法面の切土やスロープによる切削によって均衡を取った。主要な滞留空間は全て直接的な配置・形状で統一し、舗装、擁壁、什器、照明等についても素材・色のコードを決めて、自然に映えるシャープな意匠に統一感を与える工夫をした。
調整池という性格上、通常はフェンスで囲まれた閉鎖空間となるところを、UDCK-柏市間の管理協定、周辺地権者の共益費負担により調整池の一般開放、継続的な維持管理が実現している。最近では隣接する商業施設「柏の葉T-SITE」とのイベント連携によって、居住者・来街者・ワーカー等の新たな賑わいが形成されており、アクアテラスを中心にした新たなパブリックライフが醸成され、自然と共生する柏の葉の街がより一層発展していくことが期待される。
調整池は、フェンスで囲い込まれた人が入れない場所というイメージが私には強い。この計画では、このような調整池を人が利用できる魅力ある水場の居場所として作り出している。
池には鴨が飛来し、水際には水性植物が植えられ、水面すれすれに歩道が設置され、親水性の高いデザインだ。時間が来ると噴水が上がり、水音をたてている。おそらく商業施設T-SITEの営業時間と関係しているのかと思われるが、この噴水の水音でこのテラスがより一層人の意識に訴えかけている。
商業施設T-SITEとの間には車道があり、地上レベルでは一体化していないのが残念だったが、アクアテラスの張出デッキや親水テラスに呼応するように商業施設側からもテラスが張り出し、このアクアテラスをお互いにうまく利用している。
人のための居場所があちこちに作り込まれており、調整池とは思えない風景となったデザインである。暑い夏や雨の日も対応できる居場所がないのは残念であるが、調整池の新しい魅力を作り出した点を高く評価したい。(東)
都市の中に水を貯めるだけの広大な空間があって良いものか。防災調整池は貴重なオープンスペースだが、多面的利用には、川ほどではないにしても、幾つかのハードルがある。洪水時に水位が上昇するためそれなりの危険性がある。洪水後に水位は低下するが池内には土砂や植物など様々な夾雑物が置き去りにされる。安全性の確保、維持管理体制の構築は必須であり、かつ、これらを調整池のデザインに織り込むことが必要になる。柏の葉アクアテラスでは、このような防災調整池の課題を見事に解決し、人々が水辺を眺め、そして、利用できる快適空間を実現した。天端から法面上部には樹木が、法面には草丈の短い草本植物が、水際には丈のやや高い水生植物が生育し、まとまりのある景観を形成している。北側の商業施設、南側の高層ビル群とアクアテラスの緑との組み合わせもよく計算されている。洪水時の避難方法を含むサイン群のデザインも統一されており、分かり易い。法面の植物の刈り取り、テラスや散策路の清掃も行き届いていて管理水準も高いと感じた。防災調整池の多面的利用の可能性を示すだけでなく、グリーンインフラを予感する好例と言える。これらの点を高く評価したい。(萱場)
※掲載写真撮影者は左から1・2・5枚目がForward Stroke inc.