選考結果について

最優秀賞

高速神奈川7号横浜北線Kanagawa Route No.7 Yokohama-Kita Line

神奈川県横浜市都筑区川向町~神奈川県横浜市鶴見区生麦二丁目
高速道路

横浜北線は、横浜市北東部の低地、台地、埋め立て地に立地する多様な都市的空間と、その中に残る小規模な自然によって形成されている景観内を通過する高架橋、トンネル、換気所等の多岐に渡る構造物によって構成される都市内高速道路である。沿道から視認される大規模且つ高度な技術を用いた施設に創出される景観は、地域の将来イメージを左右する重要な景観要素となることが想定された。こうした背景から、横浜北線では従来の景観設計手法をさらに一歩進めて、地域景観を保全しつつ将来イメージを形成するような新たな景観設計のあり方が求められた。
横浜北線の景観設計の取り組みは、予備設計又は基本設計でおおむねの機能、形状などが固まった比較的早い段階から外部有識者による景観アドバイザー会議を設立し、路線全体のトータルデザインコンセプト[URBAN∝NATURE/次世代都市空間と自然の調和]を策定した後、各構造物について予備設計・基本設計を基に、各デザインの検討を行っている。対象は、工事仮設物から、トンネル(内部、坑口、非常口サイン)、橋梁(JCT、高架橋)、建築(換気所、営業所、交通管理所)など、すべての構造物を対象とし、これらは同時並行で行われた景観検討・デザイン検討業務からの支援やフォローを受けて進められた。
景観アドバイザー会議は、10年間で22回開催され、トータルデザインコンセプトから、各デザイン検討、詳細設計の監修及び現場でのモックアップ等による検証、とそれぞれの段階で、審議・アドバイスを行っている。 比較的早い段階から行われたため、橋梁の構造形式や換気所の内部機能の配置の見直しなどにより、大規模な構造物による景観への影響を大きく低減することを可能にした。
事業全体を通して、”調和”をコンセプトに一貫した体制で検討が進められたことで、多岐に渡る構造物の全線に渡り、それぞれの環境や景観に応じて、良好な景観の形成を実現した。

《主な関係者》
○鶴田和久(首都高速道路株式会社 プロジェクト部長(当時)、首都高速道路株式会社 神奈川建設局長(現在))/プロジェクト総括
○国吉直行(横浜市立大学国際総合科学部 まちづくりコース特別契約教授(都市デザイン講座担当) (当時)、横浜市立大学グローバル都市協力研究センター(GCI)シニアアドバイザー(都市デザイン担当) (現在))/景観設計監修(周辺景観向上面からの総合的デザイン調整、都市デザイン:横浜環状線景観アドバイザー会議委員)
○杉山和雄(杉山デザインソリューションズ研究所代表)/景観設計監修(デザイン:横浜環状線景観アドバイザー会議委員)
○鈴木智恵子(エッセイスト)/景観設計監修(文化:横浜環状線景観アドバイザー会議委員)
○吉田愼悟(株式会社カラープランニングセンター取締役 色彩計画家(当時)、武蔵野美術大学造形学部教授、有限会社クリマ代表取締役(現在))/景観設計監修(色彩:横浜環状線景観アドバイザー会議委員)
《主な関係組織》
○首都高速道路株式会社 神奈川建設局/事業主体、設計監理、現場監理
○横浜環状線景観アドバイザー会議/景観設計監修
○株式会社オリエンタルコンサルタンツ/横浜北線のトータルデザイン検討
《設計期間》
都市計画事業承認:2001年12月~2017年3月
《施工期間》
2001年12月~2017年3月
《事業費》
3,367億円
《事業概要》
延長:約8.2km (うちトンネル部 約5.9km)
出入口:新横浜出入口、馬場出入口、新生麦出入口
計画交通量:40,000~54,000 台/日
構造
高架部:約1.0km (都筑区川向町~港北区新羽町) 約1.1km (鶴見区岸谷一丁目~生麦二丁目)
地表部:約0.2km (港北区新羽町、半地下部含む)
トンネル部:約5.9km(港北区新羽町~神奈川区子安台一丁目)
設計速度:60km/時
《事業者》
首都高速道路株式会社 神奈川建設局
《設計者》
新横浜換気所
 (株)オリエンタルコンサルタンツ
 (株)日総建
 (株)石本建築事務所
 (株)ニュージェック
 (株)大林組
馬場換気所
 (株)オリエンタルコンサルタンツ
 (株)日総建
 日本シビックコンサルタント(株)
 中央復建コンサルタンツ(株)
 清水・東急JV
子安台換気所
 (株)オリエンタルコンサルタンツ
 (株)日総建
 中央復建コンサルタンツ(株)
 (株)建設技術研究所
鶴見川並行部(YK12,13工区)
 (株)千代田コンサルタント
 (株)オリエンタルコンサルタンツ
 JFE・横河JV
 日鉄トピーブリッジ(株)
 IHI・駒井ハルテックJV
 (株)横河ブリッジ
 (株)フジタ
 清水・前田JV
生麦JCT(YK42,43工区)
 (株)長大
 (株)オリエンタルコンサルタンツ
 東洋技研コンサルタント(株)
 日本工営(株)
 JFE・横河JV
 IHI・川田JV
 MMB・日鉄トピー・駒井ハルテックJV
 オリエンタル白石(株)
 三井住友建設(株)
 JFEエンジニアリング(株)
 戸田・日本ピーエスJV
 西松建設(株)
 戸田建設(株)
《施工者》
新横浜換気所
 大成建設(株)
 (株)大林組
馬場換気所
 清水建設(株)
 清水・東急JV
子安台換気所
 大成建設(株)
 鹿島建設(株)
 戸田建設(株)
鶴見川並行部(YK12,13工区)
 JFE・横河JV
 日鉄トピーブリッジ(株)
 IHI・駒井ハルテックJV
 (株)横河ブリッジ
 (株)フジタ
 清水・前田JV
生麦JCT(YK42,43工区)
 JFE・横河JV
 IHI・川田JV
 MMB・日鉄トピー・駒井ハルテックJV
 オリエンタル白石(株)
 三井住友建設(株)
 JFEエンジニアリング(株)
 戸田・日本ピーエスJV
 西松建設(株)
 戸田建設(株)

講評

鶴見川に沿って水平方向の流れを強調した高架橋が走る。橋脚のリズム感が軽快な印象だ。剛結構造として橋軸方向に分断されない連続性の担保と、門型脚で上端コーナーの丸面取りを徹底した成果である。さらに、景観調和にとって最も重要なスケール感が広大な河川空間とマッチしている。緑とシルキーホワイトの対比も美しく、そこにある必然性を高めている。これは、鶴見川だけでなく生麦JCT付近でもスケール感との呼応が図られ、港湾部のグレイッシュな街とシルキーホワイトの対比も象徴的である。長年に渡るデザイン検討会議等により、地域特性を詳細に把握し、異なる地域をつなぐ高速道路施設群の最適解にたどり着いた結果であろう。
連結する機能を持つトンネル、トラス橋、あるいは料金所や遮音壁まで丹念にデザインし、その価値を施工までつなぎとめたことに敬意を表したい。3つの地区の換気所も地域住民アンケート等を採用して市民参画性を高めている。しかし、地域の象徴性や馴染ませること、緑との調和など抽象的な要望を形にするのは難しい。ボリュームダウン検討等は行っているが、象徴性のあり方、作られた緑空間へのアクセス等は工夫の余地があろう。市民のリテラシーアップやワークショップ等、巨大構造物への市民参画プロセスについては一考したい。
暴れ川で有名な鶴見川。治水対策を長年に渡って克服してきた景観である。寄り添う高速もまた、長年多くの人々の手によって構築されてきた。この大きな風景の親和性の高さが市民に共有され、誇りに思える風景として次世代に定着していくことを期待する。(忽那)

この作品は横浜港北JCT~生麦JCTまで延長約8.2kmに及ぶ高架橋とトンネルからなる高速神奈川7号横浜北線全線のデザインであり、対象がとても広い。通常事業者の担当者は2、3年での異動によって交代し、デザインが施工にまで引き継がれないことも多い中で、デザインコンセプトの立案から完成までの約10年もの間、路線全体を「URBAN∝NATURE/次世代都市空間と自然の調和」のコンセプトに基づき、橋梁・高架橋だけでなく、トンネル・換気塔等建築物・標識から工事中の万能塀までにおよんだ、事業主体によるデザイン監理がまず素晴らしい。
現地に立ってみて一番魅力に感じたのは、鶴見川沿いに連続する白い高架橋とトラス橋である。鶴見川堤防上を歩いていると、否応なしに大熊川トラス橋の巨大な白が目に付く。上下2層に車道を有す橋梁で、白く太いトラスが低い位置に架かる姿は、いわゆる美しさがあるとはとは言えないが、良い存在感を与えている。川を挟んだ新横浜公園から見える青い空×白いトラス×緑の堤防は、ここでしか味わえない景色である。
これに続くダブルデッキの高架橋は、上層ラーメン構造の採用で桁と梁が剛結され、目障りな梁が目立たずスッキリし、イイ高架橋に求められるリズム感がある。インフラ整備事業においてコンセプトを決めてデザインする事例は多々あるが、このように広範囲の対象物の細部にまで監理されることは少なく、関係者の努力に敬意を表したい。現地で10代~70代まで何人かに話を聞いたが、デザイン性がある、格好いい、素敵、違和感なく溶け込んでいる、と好評であったことを添えておく。(丹羽)