選考結果について

最優秀賞

警固公園Kego Park

【福岡市中央区天神】
用途 / 公園

 福岡市中央区の警固公園は、かつて園内の死角の多さから若い女性を狙った性犯罪や夜間の騒音被害等が相次ぎ、犯罪の防止と迷惑行為の抑制が急務の課題となっていた。これを受け、同公園の再整備事業が実施され、平成24(2012)年12月に供用開始した。
 本事業ではデザインコンセプトを「防犯と景観の両立」とし、単に公園の防犯対策事業という位置づけでなく、都市景観の一部として警固公園の存在感を高める事業方針が目指された。特に見通し改善によって見えてくる周囲の景観を公園の魅力として重視し、逆に周囲からは園内の様子や来園者の活動、休憩する姿を十分かつ魅力的に眺められるデザイン提案がなされている。そうした園内外の視線交錯とともに改修後の公園の魅力が周囲に伝播することで、来園者の増加と人目が増えることによる防犯効果の向上が図られた。
 利用実態調査の結果から、再整備後の公園では歩行者動線が園内全体に広がり、旧公園では人通りの見られなかった南側通路等にも多くの動線が確認されている。また、供用開始から1年後、中央警察署が同公園の治安状況について調べた結果、少年補導件数の減少や体感治安の向上に加え、車に連れ込む等、悪質なハント族もいなくなるなど、公園再整備による治安改善効果が報告されている。
 さらに、同じく供用開始から1年後、隣接するソラリアプラザが公園側の外壁を改修、
リニューアルオープンした。プラザの広報室は「刷新した警固公園の美しい眺望を最大限に活かすため、南側外壁をガラスにする」と伝え、さらに公園側の店舗は「警固公園が一望できるカフェ」として売り上げを向上させている。プラザ館長からは「改修を機にこれまで背を向けてきた公園側に玄関口を置きたかった」との説明も得た。公園に隣接する警固神社宮司からは「再整備後、神社の参拝客が増加した」との報告もあり、公園の再整備が治安改善と共に周辺への波及効果をもたらしていることが確認された。

《主な関係者》
◯柴田 久(福岡大学工学部社会デザイン工学科)/コンセプト提案、基本設計、
実施設計監修、現場監理(デザイン監修)
◯大杉 哲哉(株式会社アーバンデザインコンサルタント )/実施設計
◯勝野 靖弘(株式会社アーバンデザインコンサルタント)/実施設計
《主な関係組織》
○福岡市役所 住宅都市局みどりのまち推進部みどり整備課/事業主体
○福岡大学 工学部 景観まちづくり研究室/基本設計、実施設計のデザイン支援
○株式会社アーバンデザインコンサルタント/実施設計
○警固公園対策会議/防犯対策協議・支援
《設計期間》
2011年9月~2012年3月
《施工期間》
2012年4月~2012年11月
《事業費》
380,600,000円
《事業概要》
面積:11382㎡
公園種別:近隣公園
立地環境:福岡市天神地区の中心に位置し、ソラリアプラザ、 レソラ天神、
三越デパート等の商業ビルに囲まれ、西鉄福岡駅、警固神社なども隣接している。
主要施設:中央園路、中央広場、南側通路、公衆トイレ、
ベンチ、地下駐車場・駐輪場への出入り口など。
《事業者》
福岡市役所 住宅都市局みどりのまち推進部みどり整備課

講評

 エントリーされてきた警固公園の説明資料では、再整備前のこの公園は見通しが悪い箇所などがあり、犯罪が多発し、今回の再整備でいかにそれが改善されたかという説明が多く、ネガティブなものを取り除いたという印象であった。現地を訪れたのは晩夏の夕方、まだ高い陽は天神の街を照らし、ビルの影に入るとようやく人気づくような気候の頃であった。ところが驚いた。資料で見る限りでは高木が少なく、陽を遮るものが少ないから、人々が溜まる場とは思えなかったのだが、猛烈な数の人々がこの広場(というのが相応しいように思う)でくつろいでいる。親子連れ、カップル、友人のグループなど、日本の街なかの戸外の広場で、このように多くの人が溜まっている光景は殆ど見たことがない。公園の再整備に伴い隣接するソラリアプラザでは公園側の開口が増やされたという。その公園が見下ろせるカフェに上がって見た。中央部がやや低くなっているだけの基本は円とその放射線で構成された単純な空間であるが、何しろ多くの人が居る。みなくつろぎ、または楽しそうにしている。居心地が悪ければ、この人々はここにいないのであろう。晩夏の夕方、ようやくビルの影にすっぽりと入った公園では、少しだけ涼しい風が通り抜け、ますます人が増えた気がした。公共空間なんて結果で判断して良いと思う。市民に使われ、大切にされているこの事実が重要である。その要因は一層慎重に見定める必要はあるものの、この現状はまさに最優秀賞に相応しいものとして評価したものである。(高見)

 「広場」のルーツは古代ギリシアのアゴラ/市民の集会にあり、その後のヨーロッパで市民自治の象徴的空間としてpiazzaやplazaとして発展した。それに対して英語でいうsquareは街路の交差点から発展した空間であり、地中海世界から発展した広場とは、別の空間であるのだが、現代都市のオープンスペースはplazaとsquareの両方の機能を求められる。警固公園はそれを実現した極めて現代的なオープンスペースなのだと思う。
 squareは、現代社会においては駅前交通広場として見ることができるが、交通の要である車中心で計画されることが多い。警固公園は駅前にありながら、車中心の駅前ロータリーでは無い事が、成功の大きな理由の一つでもある。
 まちの中心の様々な商業施設に囲まれた、人のためだけの大きな交差点。そんな場所であるから、人が自然に集まり、休憩し、その人たちを目がけたパフォーマンス集団が集まる。ベンチとして配置された自然石や植栽帯の縁石になんとなく人が座っている事で生まれる安心感が改修前の警固公園の一番の問題であった安全性を改善している。
 写真で見ると木が少なく、こんな暑そうな場所に人が集まるのだろうかと思ったが、周りの建築が公園に十分な影をつくる。余計な水景や緑のかたまりが取り除かれることによって、
空間に伸びやかな広がりをつくりだし、人が集まるお皿としての地面が丁寧にデザインされている。地面のデザインで一番効いているのが、雨水排水を公園の中心に集めるその微地形である。地形と言えない程の水勾配程度のゆるい窪みが広場に中心性をあたえ、人々を包みこむ。
(戸田)