選考結果について

奨励賞

柳川市民文化会館周辺の掘割景観デザインLandscape Design of Canal Around Yanagawa Citizens’ Cultural Center

福岡県柳川市上宮永町43-1
劇場、広場、遊歩道、橋梁、船着き場

福岡県有数の観光地である水郷柳川の掘割に面した劇場建築「柳川市民文化会館」が新たに建設されることを端緒とし、掘割と建築の中間領域となる広場(愛称「掘割広場」)、及び掘割沿いの遊歩道や、船着き場、掘割にかかる歩道橋がシームレスに繋がる、掘割の景観そのものを整備した事業である。
本事業の特徴として、建築と掘割広場、遊歩道、歩道橋、船着き場など、同じ柳川市の事業でありながら、複数の担当課による複数の事業に跨っていた点がある。その中で、各事業がそれぞれに柳川らしい掘割の景観を考え、掘割からの見え方に配慮するとともに、事業間においても細やかなデザイン調整を図ることで、トータルデザインの形成を実現している。
「水上に浮かぶ柳川の舞台」というコンセプトから、建築は掘割に向けて大きく開き、内外が一体となる設えになっている。掘割広場も屋外劇場のような空間と捉え,建築とひとつつづきの舞台状の広場とした。掘割広場は、建築の浸水対策によって生まれる高低差を活かしたひな段状のデザインで、柳川の伝統的な生活空間である汲水場(くみず)や船着き場の風景を引用している。
また、かつてより市民の生活動線となっていた遊歩道は、既存の樹木を活かしながら再整備することで、その空間の記憶と機能を継承しながら新たな風景を創り出している。遊歩道とともに、これらと統一された素材や色調による歩道橋や、川下りのどんこ船の船着き場が整備されることで、水を身近に感じるアプローチが形成され、まちと連続する一体の劇場空間、交流空間が創出される。
新型コロナの影響はあったものの、現在、模型を囲みながら、施設管理者、設計者も一丸となって、使い方のアイデアを議論している。
景観的な配慮から作り込み過ぎず、おおらかなデザインとし、はじめから完成された空間ではなく、人々が気軽に訪れ、利用することで、文化会館の成熟とともに未来の風景が育まれることを目指した。

《主な関係者》
○前田 哲(株式会社 日本設計)/建築、ランドスケープ(掘割広場、遊歩道)の基本設計、実施設計、監理、船着場、歩道橋のデザイン監修
○小澤 賢人(株式会社 日本設計)/建築、ランドスケープ(掘割広場、遊歩道)の基本設計、実施設計、監理、船着場、歩道橋のデザイン監修
○浅田 英司(有限会社デザインネットワーク)/ランドスケープ(掘割広場、遊歩道)の実施設計、監理、船着場、歩道橋のデザイン監修
《主な関係組織》
○柳川市生涯学習課/柳川市民文化会館建設を中心とした全体事業の推進
○柳川市建設課/歩道橋事業の推進
○柳川市都市計画課/船着場事業の推進
《設計期間》
2016年4月~2017年5月
《施工期間》
2018年6月~2020年8月
《事業費》
約44億円
《事業概要》
主要施設:
柳川市民文化会館 水都やながわ(延床面積:5,852.87㎡)
掘割広場(面積:約2,000㎡)
遊歩道(全長:約250m)
歩道橋(全長:約20m)
船着き場(約13m×約6m)

立地環境:
福岡県内有数の観光地で、「水郷」とも呼ばれる柳川市は、掘割(水路)の町で、その全長は約930㎞に及び、掘割での川下りが観光客を楽しませる。その掘割(外堀)に面した敷地に建つ柳川市民文化会館およびそれを端緒とした掘割の景観整備である。
《事業者》
福岡県柳川市
《設計者》
株式会社日本設計
〈設計協力者〉
有限会社 デザインネットワーク
《施工者》
西松・冨士特定建設工事共同企業体(建築工事、掘割広場含む)
〈施工協力者〉
柳川造園組合(植栽工事)
㈱乗富鉄工所(歩道橋工事)
㈲伍大建設(歩道橋工事)
㈱鎚絵(歩道橋工事)
㈲式組(船着き場工事)

講評

柳川堀割沿いの、恵まれた立地に立つ建築が単に配置されただけではなく、いかに場所の特徴を読みとり、生かして整備されているか?に議論は集約された。
掘割と建築をつなぐ前庭は丁寧に考えられ、設計されている。現地では、応募資料に掲載された写真が示すように、地域の生活、文化創造活動に向けた、質の高い整備が実現していた。一方、応募写真の画角から外れた、建物左右と背後に広がる駐車場、あるいは写真の先、水濠の対岸に広がる水田風景へ、視線と意識が向いた。例えば水田風景は、建築の中庭と呼応するように、向き合って広がっているが、この関係
が変化する(例えば、水田が失われてしまう)と印象は大きく変化する。
場所を特徴を読みとり実現した良好なハード整備が敷地の一部に留まらず、隣接した周辺部や周辺地域へと影響を及ぼし、地域の社会制度や仕組みのデザインをさらに発展させていくことを期待したい。(篠沢)